知りたい!
医療・健康・介護のニュース・解説
「新品の用具を買えなかった」川崎フロンターレ・小林悠選手…経済的に苦しい家庭の子にスポーツ支援の動き
家庭の経済的な理由からスポーツを続けるのが難しくなる子どもたちがいる。シューズやユニホーム代、対外試合の遠征などで継続的に費用がかかるためだ。夢を諦めないでほしいと、プロスポーツの選手やNPO法人などが支援に乗り出している。(河野越男)
NPOやプロ選手 用具や遠征費など子どもに提供
NPO法人「ラブフットボール・ジャパン」(神奈川県)が9月、横浜市内で開いた、子どもたちとサッカーJ1・川崎フロンターレの家長昭博選手(37)らプロ選手が交流するイベント。ボールを追う中学1年の長男(12)を見守る母親(34)は「中学に入学する時、息子は家計を心配して『サッカーを続けたい』となかなか言わなかった」と打ち明ける。
小学5年の次男(11)も地元のサッカー少年団に所属。シューズにユニホーム、トレーニングウェア代などが2人分かかる。対外試合などの遠征代も必要だ。育ち盛りの食費に、最近の食材の値上げが響く。学習塾にも通わせたい――。
「大好きなサッカーを続けてほしいから、フルタイムで働いた後、週2日、夜間に飲食店でダブルワークをしている」と母親は話す。
同法人は、子どもや若者が経済的な事情でサッカーを諦めないでほしいと、2021年から支援活動を続けている。23年は、寄付を原資に、用具の購入費や月謝、遠征費などに充ててもらう「奨励金」5万円を7~19歳の140人に支給した。トレーニングウェアやシューズなども提供している。
支援対象の87%が、ひとり親世帯だ。35%はサッカーをするために借り入れをしていた。代表理事の加藤遼也さん(39)は「スポーツは、仲間作りや、社会性を養うことにもつながる。続けられるように支援したい」と話す。
厚生労働省の21年度の調査では、ひとり親の女性の就労による年間の収入は、正社員で平均344万円、パート・アルバイトなどでは平均150万円となっている。子育てによる時間的な制約から非正規雇用を選ぶ人も多く、家計に余裕がないケースが目立つ。
東京を拠点とする14のスポーツチーム・団体によるプロジェクト「TOKYO UNITE」も、都内の困窮世帯の子どもたちに野球やサッカー、バスケットボールなどのシューズを贈っている。
読売ジャイアンツやサッカーのFC東京など、各チーム・団体の所属選手から提供された靴などをオークションにかけ、収益を用具の購入代金に充てる仕組みだ。
8月にサッカーシューズを受け取った小学3年と1年の兄弟の母親(38)も、非正規で働いてきた。「たくさん走るので、3~4か月ほどでだめになってしまうから、本当に助かる。格好いいシューズで、2人とも喜んでいる」と話す。
機能性の向上などで用具の高価格化も進んだ。大阪市の野球用品店「球児先生」では今年1月、店舗の一つで、個人などから買い取ったり、寄付を受けたりした中古のバットやグラブを、用具をそろえることが難しい子どもに無償で貸し出す取り組みを始めた。現在、小学校低学年を中心に約110人が利用しているという。
山田正人代表(61)は「経済的に高価な用具を購入できない子もいる。野球のすそ野を少しでも広げるためにも、応援したい」と話す。
笹川スポーツ財団の21年度の調査で、スポーツ活動をしていない小学生の親の約46%が、理由(複数回答)として「費用の負担が大きいから」を選んだ。年収別にみると、400万円未満の世帯では約60%と、800万円以上の世帯(約27%)を大きく上回る。
「子どものスポーツ格差」の共著がある筑波大の清水紀宏教授は「経済的な事情でスポーツをしなくなる子は多い。子どもの頃から、何かを『諦める』経験が続くことで、希望や意欲を持てなくなるのが一番心配だ」と指摘している。
1 / 2
【関連記事】