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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

がんは「早期発見」すれば治せるんですか?

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がんは早期発見すれば治せるんですか?

イラスト:さかいゆは

 「早期発見・早期治療」というのは、がん検診を促すキャッチフレーズです。単純でわかりやすい言葉で、日常会話でもよく使われています。

 「早期発見・早期治療でがんは治るっていうから、検診受けなきゃね」

 がん検診における「早期発見・早期治療」というフレーズの意味を、正確にいうと、次のようになります。

 放っておけば「進行がん」となって命を脅かす病気を、根治可能な「早期がん」の状態で発見し、早期に適切な治療を行うことによって根治させ、命を救うこと。

 これだけ見ると、「早期発見・早期治療」は素晴らしいことで、それを実現するがん検診は当然受けた方がよいように思えます。

「どこまでが早期がん?」

 でも、「早期発見・早期治療」の意味を追求していくと、それほど明快に割り切れる話ではないことに気づきます。

 「どこまでが早期がんで、どこからが進行がんなのか?」

 「がん検診で見つけられたら早期なのか?」

 「すべてのがんは、放っておけば進行がんになるのか?」

 「がんは早期発見すれば治せるのか?」

 「早期発見・早期治療は本当によいことなのか?」

 今回は、そんな疑問について、考えてみたいと思います。

 割り切れなさを生んでいる理由として、次の三つが挙げられます。

(1)「時間」と「病気の進行」という二つの軸があって、両者にズレがあること。

(2)画像検査では「しこり」をつくった病変しか認識できないこと。

(3)根治できたと思っていても、後から再発をきたす可能性があること。

 がんの進行は、ゆっくりなものから急速なものまでいろいろあり、毎年検診を受けていたとしても、見つかった時点で「進行がん」になっていることはよくあります。逆に、何年も前からしこりを自覚しながら放置していた場合でも、「早期がん」の診断となることがあります。時間軸として早かったとしても、病気の進行度として早期とは限りません。「早期発見」は、どちらかというと、病気の進行が早期の段階で見つかることを意味していますので、検診で見つけられたがんがすべて早期発見と言えるわけではありません。

早期に見つけても治せない場合がある

 がんがあると診断できるのは、画像検査や内視鏡検査で病変を確認できたときです。直径5mmのしこりには、がん細胞が1億個くらい集まっていますが、それよりも小さい塊だとなかなか認識できません。1億個以上の細胞の塊が形成されるまでには、それなりの時間がかかっていると考えられ、その間に、がん細胞の一部が血管などを通って体を巡り始めている可能性もあります。体を巡っているがん細胞は、「微小転移」とも呼ばれ、将来的に遠隔転移を引き起こすことになります。

 どこの段階で見つけたら「早期」と言えるのかは、微妙なところです。最先端の技術を駆使して、がん細胞がしこりを形成するよりも前に見つけたらよいと思われるかもしれませんが、仮にそれを見つけたとしても、本来治療の必要がないもの(放っておいても一生悪さをすることがないもの)を見つけている可能性が高くなり、その段階で治療を行うのは、「過剰診断・過剰治療」となってしまいます。

 がん細胞(遠隔転移の種)が体を巡り始める前の段階で見つけて、しこりを取り除く治療ができれば、あるいは、遠隔転移の種も薬物療法でゼロにできれば、それは、「早期発見・早期治療」で根治できたと言えますが、本当に根治できたかどうかはなかなか確かめようがありません。根治できたと思っていても、あとから遠隔転移が生じることがあり、その場合は、「早期発見・早期治療」にはなっていなかったことになります。

 「早期に見つけても治せない場合がある」という言い方もできますし、「振り返ってみたら早期ではなかった」と言う方が正確かもしれません。

 ややこしいことを書いてしまいましたが、「早期発見・早期治療」は、言葉ほどには明快なものではないということはご理解いただけたでしょうか。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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