後閑愛実&ゆき味「病棟ものがたり」
医療・健康・介護のコラム
入院時に会話もできなかった80代男性が2か月後に多弁に…元気になったのは薬を減らしたから?
高齢者になると、いろいろな病気を抱えるようになり、服用する薬が増えていきます。しかし、そうした状況が続くと、本来、病状を改善させるための薬が、健康に害を及ぼしてしまうという場合があります。
食事中に動かなくなる
療養病棟に入院してきた80代の男性は、心臓病や腎不全に加え、不眠などもあり、複数の医療機関から10種類以上の薬を処方されていました。
入院時の意識レベルは低く、声をかけると目は開けますが、すぐに閉じてしまいます。話しかけても簡単な単語が返ってくる程度。こちらが言っていることはわかっているようですが、会話にはなりません。
ある日、介護職員が食事の介助をしていると、男性が動かなくなりました。
「看護師さん、なんかおかしいです」
介護職員に言われて患者さんをみると、顔色が真っ青でうなだれています。
もしかして窒息!?
そう思った私は、男性が座っていた車椅子の後ろにまわり、腹部突き上げ法(ハイムリック法)を試しました。しかし、全く反応がありません。
そのまま隣の部屋に連れて行ってストレッチャーに乗せ替え、介護職員には胸骨圧迫(心臓マッサージ)をお願いし、私は吸引をして口の中のものを取り出そうとしました。すると、口の中から食べたものがたくさん出てきました。医師を呼び、気管挿管をしてもらうと呼吸が再開しました。
無口だった男性が軽い冗談も
急性期病棟で治療をして2か月後、男性は療養病棟に戻ってきました。
「いやー、あのときは死ぬかと思ったよー」
以前入院していた時は無口だったのに、軽い冗談を言うほど、よくしゃべるようになっていました。
急性期病棟では薬を減らし、5種類程度になっていました。窒息した時はおそらく、服用していた何種類もの薬の副作用によって意識レベルが低下し、のみ込む機能が落ちていたのです。薬を減らしたことで、以前よりも回復されていました。途中からは、介助は必要でしたが、食事も少しは自分で取れるようになりました。
薬の副作用で嚥下機能が
誤嚥 は、高齢者の不慮の事故死の多くを占めています。年を重ねるうちに食べ物をのみ込む力(嚥下機能)が低下し、気道に入り込んでしまった物を、せき込んで吐き出す力も弱くなり、食べ物が詰まりやすくなります。ただ、その中には、薬の副作用が重なって嚥下機能が低下したというケースが含まれています。
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