ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
「看取り介護」を行う予定だった90歳代女性が「普通の生活」に…奇跡を呼んだのは愛犬ミック

片時も離れずに瀬川さんのベッドの上で過ごすミック(「さくらの里山科」で)
瀬川安江さん(仮名、90歳代女性)は、軽度の認知症を患っていながらも、かつては、愛犬のミック(ヨークシャーテリア系のミックス犬、雄)との“2人暮らし”を何とか続けていました。しかし、徐々に認知症が進行するにつれて生活能力が失われていき、自力で生活をするのが限界になりました。心配した家族が老人ホームへの入居を勧めましたが、いくら勧めても、「ミックと離れたくない」と言って、頑として断り続けていました。
そこで、ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」のことを知った家族が、ここを勧めたところ、「そこならミックと一緒に行ける」と納得してくださったそうです。
「さくらの里山科」に来てからも、人間の食べ物をミックに与えてはいけないということを、なかなか瀬川さんがご理解してくださらないなど、いろいろと大変なことはありましたが、基本的には幸せに暮らしていました。
瀬川さんとミックの入居の経緯は、2021年10月4日の「 “親子”そのもの 認知症の高齢者と愛犬ミック…夜は一緒に寝て、朝は一緒にリビングで、“2人”は幸せ 」というコラムで書いています。
瀬川さんとミックが、「さくらの里山科」に入居して5年半がたちました。入居当初、自力で歩くことができていた瀬川さんは車いす生活になりましたが、その膝の上にはいつもミックがいます。職員が車いすを押してトイレに向かえば、その隣をミックがちょこちょこと歩いていきます。ホームに来てからも瀬川さんとミックはいつも一緒でした。
ところが、この秋、“2人”は、しばらくの間、離ればなれになりました。瀬川さんが入院したのです。大変な高齢である瀬川さんは、入院中の療養生活で一気に弱ってしまい、寝たきりの状態に。 嚥下 能力(飲み込む力)と 咀嚼 能力(かむ力)も弱まり、固形物をほとんど食べられない状態になってしまいました。
退院してきた時、ホームの嘱託医師(配置医師)は、部屋での絶対安静が必要だと診断しました。そして食べられる物は、水分補給用と栄養補給用のゼリーのみです。それらはもちろん、ドラッグストアなどでよく売られている飲むゼリーとは異なります。介護用の専門食品です。そのようなゼリーを食べることで、かろうじて命をつないでいる日々でした。
医師は、 看取 り介護を行う状態であると判断し、私たちはそれに向けて、瀬川さんの家族と相談を始めました。
このような深刻な状況でしたが、瀬川さんの意識はしっかりしていました。元より、認知症を患ってはいても、会話はしっかりできるタイプだったのです。リビングでいろいろな方とお話しするのが大好きだったので、これまで、寝る時以外に長時間、部屋で一人で過ごすことなどありませんでした。だから私たちは、一人きりで部屋で安静にしている間に、生きる気力をなくしてしまうのではないかと心配しました。
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