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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

ADHDで学校の先生を骨折させるほど荒れていた中2男子 主治医にエクレアを贈れるようになれた理由

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学校で先生を骨折させるほど荒れていた男子中学生 ほめられることで変わり、アルバイト代で主治医にエクレアを贈るまで

 子どもたちをほめることが、子育てでは大切である、とよく言われます。今回は、ほめることが子どもたちの心にどのような影響を与えるのかについて考えてみたいと思います。

 悠太君(仮名)は、学校で暴力を振るうということで思春期外来を受診した中学2年の男子です。

 1歳の時に両親が離婚してお母さんに引き取られ、おじいちゃん、おばあちゃんと同居するようになりました。悠太君の養育は主におばあちゃんが行っていました。保育園時代から多動でけがの多い子でした。小学校入学後は授業中に教室をたびたび飛び出し、担任の先生からよく叱られていました。

 中学校入学後は落ち着きがみられるようになりましたが、思い通りにならないと同級生や先生に暴力を振るうようになりました。同級生が消しゴムを貸してくれない、席を譲ってくれない、ということで、相手の子を殴ったり蹴ったりしました。また、体育の授業中、バレーボールのボールを他の生徒に投げつけたことを先生から注意されたことをきっかけに、先生に殴りかかり、先生の鼻骨や 肋骨(ろっこつ) を骨折させることがありました。

 中学2年になってからは、学校での興奮がさらにエスカレート。警察を呼ぶ事態にまで発展し、児童相談所に行くことになりました。そして、児童相談所の紹介で、おばあちゃんに伴われて思春期外来を受診したのです。

近所のラーメン店でアルバイトを始めた

 悠太君は、中学2年生にしては大柄でしたが、主治医に怒られるのではないかとビクビクした様子でした。主治医は、受診したことをまずねぎらい、これまで学校であった大変な出来事をよく乗り越えてきたこと、いろいろな出来事によって心が傷ついたのではないかということなどを話し合いました。話をしているうちに悠太君の表情が少しずつ明るくなっていきました。暴力行為を伴った注意欠如・多動症(ADHD)ということで、薬物療法を行いながら定期的に通院してもらうことになりました。

 診察を繰り返すうち、学校での様子を少しずつ語ってくれるようになりました。

 「授業中は教室から出ていきたいけれど、皆の迷惑になると思って、いすに座って我慢しているんだ。俺は一度のできごとでキレるわけじゃないんだ。何度も同じことを言われた時にキレるんだ」

 主治医は、悠太君なりに我慢していることを大いにほめました。その後の診察でも、毎回、良いところ、努力しているところをほめるということを繰り返しました。

 通院を開始して1年後、小さなトラブルはありましたが、警察沙汰になることはなくなり、無事に中学校を卒業することができました。

 卒業後、悠太君は近所のラーメン店でアルバイトを始めました。お客さんへのあいさつから厳しく指導され、 厨房(ちゅうぼう) での細かな作業をたくさん覚えなくてはなりませんでした。でも、店長が兄貴のような存在で、面倒見の良い人なので救われたようです。

 1か月後、悠太君は初めてもらったアルバイト代で主治医にエクレアを1個買ってきました。

 「先生にはお世話になりました。病院でも学校や警察と同じように怒られるのかと思っていたんだ。でも、先生はいつも俺のことをほめてくれた。ほめてもらったおかげで、これでいいんだと思えるようになったんだ」

 悠太君はこう話しました。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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