大川智彦「先手を打って、病に克つ」
医療・健康・介護のコラム
「まさか、18歳の私ががん?」――悪性リンパ腫が見つかった女性が治療後に目指した医師への道
がんは高齢者の病気なのでしょうか? 長寿化、高齢化に伴って、がん患者が増え続けてきたことからも、それは間違いではありません。とはいえ、学生や働き盛り、子育て中の「 AYA (思春期・若年成人期)世代」ががんになることだってあります。このコラムで再三にわたって指摘してきた「早期発見・早期治療に勝る治療はなし」は、若い世代にとっても変わりありません。
連載の最終回は、未来ある若い世代に向けてのメッセージで締めくくりたいと思います。
大学入学直後の健康診断で
都内に住むI・Mさんが、自分の異変に気付かされたのは、大学入学直後の健康診断の結果がきっかけでした。X線写真で心臓付近の上縦隔と呼ばれる部位に 腫瘤 が見られ、「要精密検査」となりました。気力も体力も充実している18歳の女性です。痛みも体調不良も感じたことはありません。「腫瘤」という聞き慣れない言葉に心配を募らせたご両親にも促され、すぐに専門病院で検査を受けることになりました。
担当医の触診で、左右の鎖骨の上のくぼみにあるリンパ節がやや大きくなっていることを指摘されました。「寝耳に水」といった表情のI・Mさんに、医師は「発熱、寝汗、体重減少などはありませんか」と尋ねました。「高校卒業を控えた時期に2~3キロやせたことはありましたが……」と答えると、その場で医師が血液内科に連絡を入れ、「リンパ節生検」となりました。
リンパ節の一つを摘出して調べる検査の結果、「血液のがん」の一つ「悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫)」とわかりました。
すでにネットであれこれ調べ、「まさか」と「もしかしたら」のはざまで揺れていたI・Mさんは、医師から病名を告げられた瞬間、頭がぼーっとして、全身の血が引いていく感覚となったそうです。ようやく大学受験を乗り越えたばかり。勉強したり、遊んだり、恋をしたり、友人と将来の希望や不安を分かち合ったりと、やりたいことだらけの新生活は始まったばかりです。
「私はがんで死ぬの? まだ18歳なのに」
そんなI・Mさんの不安をよそに、CT検査、PET(陽電子放出断層撮影)検査、それに骨髄検査などが続いていきます。
ようやくたどり着いた最終的な診断は「ホジキンリンパ腫ステージIIA」でした。医師から「化学療法を先行し、効果を見ながら放射線治療を追加する」と説明を受けた後、「しっかり治療すれば、良くなる可能性は十分にあります」とも言われました。I・Mさんが書籍やネットで調べた結果も「ステージが進んでいなければ、決して予後は悪くない」でした。
外来での治療も検討されましたが、ご両親とも相談して、病気としっかり向き合う覚悟を決めたI・Mさんは、入院での治療を選択し、大学には休学届を出しました。
化学療法の副作用に悩まされながら
4種類の抗がん剤を使った治療は、予定通り、6回を終わると、幸いにも上縦隔の病巣は消えていました。医師からは、当初の腫瘤の大きさを考慮し、予防的に放射線治療を追加すべきだと言われ、そちらにもしっかりと取り組みました。治療中に経験した副作用は予想以上に厳しく、吐き気、食欲減少、味覚障害、脱毛などに悩まされました。その都度、担当医や看護師さん、薬剤師さんらが親身になって温かい言葉をかけてくれたことで勇気をもらい、最後まで治療をやり終えることができました。
「私を支えてくれた医療チームの方々には感謝の気持ちでいっぱいで、今でも涙がにじむほどです」とI・Mさんは振り返ります。無事に退院の日を迎えたころ、「自分も医療に携わり、患者さんを助けたい」との思いが強く湧き上がってきたようで、彼女自身の内面にはある決意が芽生えました。「医師を目指そう。自分のような患者さんを助けられるようになろう」
両親とも相談し、休学中だった大学(文学部)には退学届を出しました。毎月1回の定期的な通院の傍ら、医学部を目指す予備校に通うことにしました。
必死に努力した結果、すぐ翌年、難関の医学部に見事合格したのは本当に立派です。
自身のがん治療から5年が過ぎ、現在23歳になった彼女に幸いにも再発の予兆はないようです。一方で、大学病院での厳しい実習に明け暮れる毎日ですが、自身の経験から「どんな人でも病気になるリスクはあります。まずそれを患者さんに伝えていきたい」と笑顔で話しています。
あと数年もすれば、患者さんに寄り添うことができる、素晴らしい医師が誕生することは間違いありません。
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