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「大学に進学したい」塾代を支援してもらう女子高生…経済的に苦しい世帯の子への学習サポートとは

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 経済的な事情で、学習塾や習い事に通うことが難しい子どもたちを支える取り組みが、各地で行われている。教育機会の格差は、親から子に貧困が引き継がれてしまう「貧困の連鎖」の要因の一つとされており、学習支援の重要性は高まっている。(板垣茂良)

電子クーポンで通塾

子どもの学習支援…学びの機会 貧困から守る

 「歯科衛生士になる夢をかなえるため、大学に進学したい。必要な塾代を出してもらえて、感謝しています」。京都府在住の高校1年の女子生徒(15)は話す。

 通塾の費用は、公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」(東京)が支援している。2011年から、住民税非課税世帯や児童扶養手当の受給世帯などの児童・生徒の学びを支えており、今年度は10都府県で合わせて約700人に、学校外で学ぶための費用として計約1億6800万円を提供。資金は、企業と個人の寄付でまかなう。

 同法人の支援は、現金ではなく、電子クーポンを提供する点が特徴だ。「スタディクーポン」という名称で、10都府県の学習塾やピアノ教室、スイミングスクールなど約3000か所の学びの場で利用できる。

 今井悠介代表理事(37)は「子どものため以外には使えず、『学びの機会』を確実に届けられる」と話す。

 1人あたりの年間の支援額は、小学生で15万円分。中学・高校の1年生と2年生は20万円分で、受験を控える3年生は30万円分だ。

 宮城県で母と祖母と暮らす女子高生(16)は、毎月2万円分のクーポンを塾代に充てている。母親は「高校は教材費が高く、定期代など交通費もかかる。クーポンがなければ塾に通わせられなかった」と感謝する。

 チャンス・フォー・チルドレンに事業を委託するなどして、スタディクーポンの仕組みを施策に取り入れている自治体もある。

 東京都多摩市は今年度から、生活保護世帯の小学4年~高校3年の希望者を対象に、塾代をスタディクーポンで支給している。

 これまで、領収書を添えて申請した場合に払い戻す仕組みで対応してきたが、「一時的とはいえ、立て替えて払うことが難しく、通塾を諦める世帯もある」(担当者)として導入した。

無料塾で格差解消へ

 文部科学省の調査では、公立小学校に通う子どもの塾代を含む「補助学習費」は、21年度は平均約12万円だ。ただ、世帯年収別でみると、800万~999万円の世帯では約16万円なのに対し、400万円未満では約6万円。公立の中学や高校に通う子どもについても同様の傾向で、年収により大きな差が生じている。

 無料塾で教育格差の解消に取り組む人たちもいる。

 大阪市のNPO法人「ふらいおん」は、20年に大阪教育大の学生4人が設立した。小学生が対象の同市の校舎「 Sienしえん 」では、週2回、子どもたちが学校の宿題を解いたり、塾が用意した無料の教材で学んだりしている。現在、利用登録をしているのは24人。丁寧に対応するため、1回の定員は6人で、児童2人をスタッフ1人が担当する。

 生活状況を知られたくない人もいるはずだとして、登録時に世帯収入は確認していない。そのため、利用者は経済的に厳しい家庭の子ばかりではないが、「月謝が必要な塾には通わせられない、と親に言われた」と明かす児童もいる。

 同法人理事の野田風馬さん(24)は大学卒業後も放課後デイサービスの職員などとして働きながら、Sienで学習支援を続ける。ふらいおんが直接、運営に携わる無料塾は、三重県四日市市など7か所に増えた。野田さんは「『無料塾を作りたい』という問い合わせが各地から寄せられる。ノウハウを提供し、取り組みを全国に広めたい」と話す。

実施は自治体の判断

 「子どもの学習支援」は、2015年度に国の生活困窮者自立支援制度の事業の一つに位置づけられた。ただ、実施するかどうかの判断は自治体に委ねられている。

 厚生労働省の資料によると、22年度は596自治体が取り組んだ。委託を受けた社会福祉協議会が教員OBの力を借りるなどして実施しているケースが多く、21年度の利用者は約4万人に上る。

 人口規模別の調査(20年度)では、50万人以上の自治体は、ほぼ実施している。一方で、3万~5万人の自治体では約半数、3万人未満では8割弱が実施していない。委託先や財源の確保が困難なことや、対象者が限られることが、未実施の背景にあるとみられる。

 同省の担当者は「ヤングケアラー、ひきこもりなど、様々な困難を抱える子どもたちに対応するため、オンラインなども活用して学習支援の充実に取り組む必要がある」としている。

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