わたしのビタミン
医療・健康・介護のコラム
医療的ケア児を育てる人たちに朗読会…医療機器メーカーで海外を飛び回った30代女性が活動を始めた理由
難病・障害ある子どもと家族の外出を支援…中嶋弓子さん(37)
たんの吸引や酸素吸入などの医療的ケアが必要で、外出が困難な子どもたちがいます。その親たちも、子どもを誰かに任せて外出するのをためらいがちです。「おでかけ」を普通に楽しめない状況を解消したくて2019年に、「東京おでかけプロジェクト」という活動を始めました。
「本の街」東京・神保町の子どもの本専門店で朗読会を開いています。親子で安心して参加してもらえるように小児科医が待機し、ボランティアの大学生が子どものそばで見守ります。銀座のバラ専門店では、母親たちにメーキャップアーティストによる化粧やヘアメイクを楽しんでもらうイベントを催しています。
医療機器メーカーの営業職で、海外の医療機関を回っていました。製品が医師を支え、患者の救命に役立っていると自負し、やりがいを感じていました。
一方、自宅の最寄り駅では通勤時に身体に障害のある人が階段を上るのに苦労する姿を見かけるようになりました。手を貸そうか迷うのですが、勇気がなくて声をかけられません。世界を巡り、人の命にかかわる仕事をしているのに、目の前で困っている人を助けられない。それが現実でした。
悩んだ末、もっと身近な人の役に立つ仕事をしようと、日本財団に転職しました。これが、難病や障害のある子どもたちやその家族と知り合うきっかけになりました。3年目の16年に、全国30か所で、難病の子どもらの通いの場や親同士の交流の拠点を整備する事業を任されたのです。
難病の子の支援などに取り組む小児科医やNPO法人、当事者団体を訪ね、多くの家族に出会いました。楽しいことに笑い、悲しい時に泣き、腹が立てば怒る。どこにでもいる家族です。
しかし、周りの人たちからは、「不自由でかわいそう」「逆境を乗り越え、感動的だ」と、特別な存在に見られることもあります。親やきょうだいも、気軽に買い物に出かけたり、おしゃれをしたりする、ごく普通の楽しみを控えがちなことに気がつきました。
この経験から、プロジェクトでは「自分を大切にする時間」を楽しんでもらえるよう工夫しています。
朗読会では、人混みを恐れて行きにくい海や花火を題材にした絵本を選びました。波をイメージした青い布をひらめかせるなどの演出で臨場感を味わってもらいます。メイクのイベントでは、参加者を「お母さん」ではなく、「サキさん」「エリさん」など本人の名前で呼び、一人の女性として過ごしてもらいます。
参加を機に、一人で化粧品を買いに出かける母親や、海外旅行をする家族も出てきました。「外出は特別なことじゃない」「自分だって楽しんでいいんだ」と、再認識できたからだと思います。今まで遠慮していたことを楽しみたいという願いを、少しずつかなえられるように活動を続けます。(聞き手・野島正徳)
なかじま・ゆみこ 1986年、京都府生まれ。2011年に大学を卒業し、医療機器メーカー、日本財団を経て22年に独立。企業や団体の社会貢献活動を企画、助言する事業を個人で営み、東京おでかけプロジェクト( https://linktr.ee/tokyoodekakeproject )を主宰。
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