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宮脇敦士「医療ビッグデータから見えてくるもの」

医療・健康・介護のコラム

医師が効かない薬を処方するのはなぜ? ムダな処方が減れば「医薬品不足」の問題解消の一助になるか

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 「その薬はしばらく入荷できません」

 先日、慢性の肺の病気を持つ方にせき止めを処方した際、薬局から言われた一言です。別の日には、抗生物質を薬局にもらいに行ったところ、在庫がなく、数軒渡り歩いた末、何日か待つ羽目になりました。今、日常の診療でよく使う医薬品が供給不足に陥っています。

大人用を子どもに

医師が効かない薬を処方するのはなぜ? ムダな処方が減れば「医薬品不足」の問題解消の一助にも?

 私たちはついつい、普段よく使う薬はいつでも手に入ると思いがちです。しかし、薬を作るにも原料や工場設備、人手が必要で、実は限りある「資源」だということが分かります。

 薬がないと治療ができないというだけでなく、ときには2次的な健康影響を引き起こす恐れもあります。カナダからの報告によると、2022年に解熱鎮痛薬が手に入りにくくなった際、小児に成人用の薬を誤って服用させるなどし、「中毒情報センター」への電話相談が激増しました。 (1) 

風邪に抗生物質は効かない

 薬の供給不足は、製薬企業の生産体制などに大きく起因していますが、私たちにできることはないでしょうか?

 実は、医師が処方している薬の中には、効果が乏しいと分かっているものがあります。例えば、風邪に抗生物質は有効ではありません。それどころか、下痢や耐性菌のリスクなど、害を与える可能性すらあります。

 医師がそのような処方行動を取る要因の一つとして、医師と患者さんとのコミュニケーションが十分でないことが考えられています。医師の側が、患者さんが欲しいと思いこんでしまっているというミスコミュニケーションがあると言われています。

効果に乏しい医療サービスが提供される頻度

 私たちの研究チームでは、風邪への抗生物質も含めた、様々な効果の乏しい薬や手術・検査が日本の病院でどのくらい行われているかを調べました。効果に乏しい33種類の医療サービスを調べたところ、全国242の病院で入院・外来合わせて、患者さん1000人あたり年間115~219回、医療費にして57億~129億円分のサービスが提供されていたことが分かりました 。(2)

 患者と医師は診察の際、何に対してどのような薬を服用するのか、しっかりコミュニケーションを取ることが必要です。そうすることでムダな処方は減り、医薬品が不足している現状も解消に向かう可能性があると考えています。(宮脇敦士)

(1)Pediatric Dosing Errors during a National Shortage of Fever and Pain Medications(N Engl J Med 2023; 388(22):2099-2101)

(2)Prevalence and changes of low-value care at acute care hospitals: a multicentre observational study in Japan(BMJ Open 2022; 12(9):e063171)

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宮脇 敦士(みやわき・あつし)

 2013年、東京大学医学部医学科卒業、医師免許取得。せんぽ東京高輪病院・東京大学医学部附属病院で初期研修後、東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻にて、医療政策・応用統計を専攻し、19年に博士号取得。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室助教、UCLA医学部客員研究員を経て、23年7月から同大学ヘルスサービスリサーチ講座特任講師。大規模データを用いて良質な医療を皆に届けるにはどうすればよいかということを研究している。

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