認知症ポジティ部
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介護・シニア
自宅で暮らす高齢者 安全に薬を飲んでもらうための取り組みは?…服薬支援ロボットも登場
「高齢の親が薬をきちんと飲めているか心配」――。家族から、そんな声が上がることがあります。薬の種類が増え、正しい服薬が簡単ではなくなる高齢期。認知症で飲んだことを忘れ、もう一度飲んでしまう場合もあります。自宅で安全に薬を飲むための工夫を取材しました。(阿部明霞)
お薬カレンダー活用
「ご飯はしっかり食べていますか?」「毎日おいしくいただいています」
神奈川県で一人暮らしをする女性(84)の自宅で、薬剤師の吉田匡志さん(40)が体調などを尋ねながら、曜日と朝、昼、夕などの表示で区切られた「お薬カレンダー」を確認した。
女性は毎食後と寝る前に高血圧の薬や便通をよくする薬などを飲んでいる。月2回、担当薬剤師が訪問し、薬が正しくセットされているか、飲み残しがないかなどをチェックしている。
「飲み忘れたら、まとめて飲めばいい?」と女性が聞くと、「まとめて飲むのは絶対にだめですよ。夜に、『朝と昼に飲み忘れた』と気づいても、夜の分だけを飲んでくださいね」と吉田さんは優しく伝えた。
医師と処方調整も
吉田さんが勤める「メディカルガーデン」は、同県海老名市と厚木市で調剤薬局8店舗を運営している。薬剤師が個人宅を訪ね、薬の管理や服用を見守るサービスに力を入れている。
毎日、薬を飲み続けているうちに、きょう飲んだかどうか、記憶が曖昧になることもある。ただ、飲み忘れは健康状態に影響しかねない。余った薬がたまって放置される「残薬」の問題も起こる。そんな事態を避けるためのサービスだ。
「薬を定期的に届けるだけでなく、飲み忘れや飲み間違いがないか、体に合っているかなどを専門家として見ている」と吉田さん。必要に応じ、医師と薬の処方について調整もする。
多くの訪問先で、「お薬カレンダー」や「服薬ボックス」を使っている。「壁に掛けるカレンダーに、その日の分をテープで貼っておく方法で忘れずに飲める人もいる」(吉田さん)。その人に合わせて、正しく、忘れずに飲み続けられる方法を見つけていく。
女性の場合、家族の電話や、訪問介護サービスのヘルパーや訪問看護師の声かけなどで、毎日の飲み忘れを防ぐようにしている。女性を担当する「生活支援ステーション じょんのび」のケアマネジャー、王丸由起子さん(41)は「お薬カレンダーを使い始めて、飲み忘れが減り、体調もだいぶ改善されている」と話す。
24時間・365日態勢
メディカルガーデンには訪問サービス専従の薬剤師が50人いて、週末や深夜などの緊急時にも対応。24時間・365日態勢で約400人を見守っている。4人に1人は認知症の人だ。
女性のケースでは、通院が難しくなった今年4月から、訪問診療を利用するのに合わせて、薬剤師の訪問も受けるようになった。ケアマネジャーらからの相談をきっかけに訪問が始まる場合もあるという。
薬剤師の訪問は月に最大4回。自己負担は、介護保険サービスを1割負担で利用している場合で、1回につき500円ほどだ。
薬剤師の吉田さんは「認知症などで不安があれば、誰かの見守りがある状況で薬を飲むのが望ましい。家族や訪問介護のヘルパー、訪問看護師らとの連携がとても重要になる」と話す。
「お薬の時間」ロボットがお知らせ 一人暮らしの心強い味方
毎日、誰かが訪問して見守るのが難しい場合、ロボットを利用する手もある。
「お薬の時間です。ボタンを押してください」
頭のライトをピカピカ点滅させながら、服薬支援ロボット「FUKU助」が薬を飲む時間を知らせた。
おなか部分にある液晶画面の「押す」のボタンをタッチすると、その時に飲む薬が取り出し口から現れる。
それを受け取ると、「お取りいただき、ありがとうございます。忘れずに飲んでください」と話す。
小林喜久恵さん(53)は、一人暮らしをしている夫の叔父のために、このロボットを利用している。
異変に気づいたのは、3年前の夏。「様子がおかしい」と連絡を受け、訪ねたところ、エアコンが壊れた部屋で意識がもうろうとした状態だった。高血圧の持病があるのに、服薬はしていないようだった。
「認知症でできないことも増え、一人暮らしが難しくなりつつあるが、『自宅にいたい』という気持ちを尊重したい」と小林さん。レンタル代は月1万1000円で、ほかに初期費用もかかったが、「車で1時間以上かかり、頻繁に行き来はできないため、とても助かっている」という。
通信機能を備えていて、出てきた薬を取っていない場合は、自分のスマートフォンに通知が来るように設定した。小林さんは「慣れないうちは、電話をかけて服用を促すことも多かったが、一人でも飲めるようになった」と振り返る。
FUKU助は医療・介護機器サービス会社「メディカルスイッチ」(東京)が開発した。薬剤師で社長の宮下直樹さん(40)が、看護師の妻、佳美さん(40)から「薬がきちんと飲めていなくて、具合が悪くなる高齢者がたくさんいる。家族の工夫にも限界がある」と聞いたのがきっかけだった。
最大1か月分の薬がセットでき、服薬を促す時刻なども柔軟に設定が可能だ。
宮下さんは「家族から薬を忘れずに飲むように言われると、煩わしく思う人もいる。 愛嬌 のある表情や声にしたFUKU助がお役に立てればうれしい」と話す。
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