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尾身茂氏 コロナ禍を振り返る オリンピック・パラリンピックの「無観客」提言…政府と距離できた
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会長を務めた尾身茂氏(74)が、読売新聞のインタビューに応じた。コロナ禍の専門家の活動を振り返り、科学と政治の関係などについて語った。(聞き手・米山粛彦)
科学的、国民の納得めざす
――どんな3年半だった?
「WHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務局長として2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)対策に当たるなど、30年以上にわたり感染症対策に携わってきたが、新型コロナが最も困難でした。ウイルスが繰り返し変異し、流行の長期化で人々の病気への向き合い方は多様化しました」
――最大の仕事は?
「政府への提言作りです。政府がクルーズ船の集団感染への対応に追われる中、20年2月に最初の提言を出しました。『無症状でも他人にうつす感染者もいる』といった脅威を伝えるのが専門家の責任だと考えました。その後、感染症、法律、倫理、経済の専門家らが週末に5~6時間議論し、100以上の提言を政府の会議などに出しました。科学的で、国民の納得を得られる内容を目指しました」
――政府の反応は?
「政府に 忖度 することなく作りましたが、多くを政策に反映してもらいました」
――人と人の接触の8割削減の提案は印象深い。
「西浦博・京都大教授の分析結果を基に、20年4月に官邸で安倍首相(当時)に伝えたところ、『8割は厳しい』と言われました。8割だけでは国民がついてこないとの首相の直感と受け止め、政府の会議で『最低7割、極力8割』を提案しました」
――最も記憶に残る提言は?
「東京五輪・パラリンピックは『無観客開催が望ましい』とした提言は、有観客を目指す政府と見解が異なり緊張しました。煙たがられても、出さなければ歴史の審判に堪えられないと考えました。五輪は原則無観客になりましたが、その後、政府の会議の開催頻度が減り、政府と距離ができたとも感じています。違う意見もはっきり言うと認識されたかもしれません」
独立性保ち政府と理解しあう
――政府と専門家で見解が異なることがあるのは、当然では。
「専門家は独立性を保ちつつも、政府と考えを理解しあうのが望ましいと思います。意見が異なる場面があっても、対話を続けられる仕組みを作るべきです。政府が専門家の考えを採用しない場合、理由を丁寧に説明する必要もあります」
――新著「1100日間の葛藤」(日経BP、1980円)=写真=が刊行された。専門家不在で政策が決まる場面も出てくる。
「安倍政権では一斉休校要請、岸田政権では濃厚接触者の待機期間短縮などが該当します。政治家のリーダーシップは不可欠ですが、科学的な議題を専門家抜きに進めれば弊害が出る恐れもあります」
――本に込めた思いは?
「提言の根拠や専門家同士の議論、政府との対話の内容を事実に基づき、克明に記録しました。新たな感染症への備えに少しでも役立てばうれしいです」
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