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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

がん教育が必要なのは、子どもよりも大人の方ではないですか?

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がん教育が必要なのは、子どもよりも大人の方ではないですか?

イラスト:さかいゆは

 前々回前回 は、子どもたちへのがん教育の話を書きました。

 がん教育で学校に行くと、子どもたちは、純粋なまなざしで話を聞いてくれて、授業後の感想文を読んでも、自分のこととして考えてくれているのがわかります。外部講師としてがん教育に携わるのは、とてもやりがいがあることだと感じています。

大人に根強い「がんのイメージ」

 子どものうちから、がんについて考え、正しく理解することは、将来、自分ががんになったときに役立つはずです。がん教育を受けた世代が大人になる頃には、がんになっても、誰もが自分らしく生きられるような世の中になっているという期待もあります。

 一方で、今まさに、がんと向き合いながら、生きづらさを感じている方は、未来に期待するというより、今の社会をなんとかしてほしい、と思っているはずです。

 未来を見据えて、子どもたちに語りかけるだけではなく、今すぐ社会を変えていくためには、大人も含む社会全体へ語りかける「がん教育」が必要でしょう。

 NHK「おはよう日本」で、「がん教育」がテーマとして取り上げられ、私が出演したときも、大人にがんの正しい知識を伝えていくのが課題だという話になりました。

 「大人の社会に根強くある『がんのイメージ』を変えていくのは容易ではありませんが、子どもへのがん教育が、それを変えていくきっかけになると思っています」

 というのが、そのときの私の答えでした。

 学校を訪れてがん教育の授業を行ったあと、教員の皆さんから、

 「きょうのお話、私自身がいろいろと考えさせられました」

 「今までイメージだけで捉えていたことがわかり、目からうろこが落ちました」

 なんて感想を聞くこともあり、がん教育を必要としているのは、子どもたちだけでないのだと実感しています。

 授業では、子どもたちへ、

 「今日得た知識や、考えたことは、家に帰って、ご家族とも話し合ってみてくださいね」

 と伝えるようにしています。子どもたちが純粋な心で受け止めたものを家庭に持ち帰って、家族と話してもらえれば、大人も、がんを自分のこととして考えるきっかけになるはずです。

始まっている「大人のがん教育」

 大人に対する「がん教育」の取り組みは、すでに始まっています。

  「がん対策推進企業アクション」 は、企業向けに展開されている、がんに関する知識の普及啓発のための事業です(厚生労働省委託事業)。現在、約5000の企業・団体が登録していて、医師が企業を訪れて講演を行う「出張講座」などが行われています。がん研有明病院は、病院として、この「出張講座」に協力していて、がん専門医による様々な講演メニューを用意し、ご希望に合った内容で講師を派遣しています。

 私もときどき依頼を受けて、企業向け講演を行っています。ちなみに、私が担当しているのは、「がんについて正しく知る」と「乳がんの薬物療法」です。もし興味をお持ちの方がおられましたら、「がん対策推進企業アクション」を通じてお問い合わせください。

「誰もががんになる可能性がある」

 「がんについて正しく知る」のテーマでお話しする場合、企業からのご要望に応じて、講演内容を調整しますが、私が特に伝えたい内容は、中学生や高校生にがん教育を行う場合と基本的には同じで、次の三つになります。

 「誰もががんになる可能性がありますが、がんになっても、自分らしく過ごせるような社会にしていきましょう」

 「一人ひとりの幸せを支えるために医療があり、それは、治らない病気と向き合うときでも変わりません」

 「がんの患者さんに接するときは、思いやり、いたわりながら、それでも、今までどおり、普通に」

 大人の場合、自分自身や身近な方ががんを患っていて、もともと、がんの当事者と感じている方が多く、また、がんをめぐるイメージが、長年かけて根深く染みこんでいる点も、子どもとは違います。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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