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医療・健康・介護のコラム

タンデム自転車で障害者と走る活動 果たせなかった夫の「夢」…死去した翌年に公道走行が解禁

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タンデム自転車で障害者との相互理解図る…津賀薫さん(72)

2人1組 心の垣根打破

 身体や視覚に障害のある人たちに、気軽にサイクリングを楽しんでもらいたいと、2人で力を合わせてこぐ「タンデム自転車」の普及を、愛媛県で続けています。障害者と健常者が2人1組で風を切って走ることで、心に垣根のない社会の実現にもつながっていけばと思っています。

 タンデム自転車は、サドルとペダルが二つずつあり、2人でこいで進みます。ハンドルは前に乗る人が操縦するので、後ろの人はペダルをこぐだけでよく、視覚などに障害がある人も乗ることができます。パラリンピックの種目にも採用されています。

 活動のきっかけは、2009年に63歳で亡くなった夫・ 徳行のりゆき のかなえられなかった「夢」です。

 夫は約30年前、46歳の時に、へんとうの治療で処方された抗生物質で薬害の被害者となり、視力が大幅に低下しました。しばらくは家に引きこもりがちだったのですが、仲間に釣りに連れて行ってもらったのをきっかけに外出する意欲を少しずつ取り戻しました。亡くなる数年前には、操縦者がいれば自分も乗れるタンデム自転車に興味を持っていました。

 ただ、夫の存命中は、愛媛県の規則で、タンデム自転車は公道を走れませんでした。それが、亡くなった翌10年の夏に県内で走行が解禁されることを知りました。大げさかもしれませんが、運命を感じ、8月1日の解禁日に合わせ、タンデム自転車で、視覚障害者と走る活動を始めました。

 13年にNPOとして登録し、今は愛媛県内を中心に月1回程度、イベントを行っています。視覚に障害のある人や脳性まひの子どもらと、自転車の愛好家や元競輪選手、地元銀行の職員といったボランティアがペアでサイクリングなどを楽しみます。

 ある60歳代の男性は視覚障害があり、自宅に引きこもりがちでした。それが、知人の紹介でタンデム自転車のイベントに参加してからは、「生きていてよかった」と口にするようになるなど、徐々に元気を取り戻しました。今では、2万キロを走ることを目標に、サイクリングを続けています。

 1回のサイクリングでは、食事や休憩を含め5時間ほどをペアで過ごします。ボランティアにとってはこうした時間が、障害への理解を深める貴重な機会となっているようです。年間延べ600人が手弁当で参加します。

 安全な走行を学んでもらうことは、普及に欠かせません。タンデム自転車は、歩道を走れないなど、交通ルールも含めた知識が必要なうえ、2人でこぐためにスピードが出やすく、慣れないとバランスを崩してしまう点にも注意が必要です。そこで、公道を安全に走る技術を伝えるため、県警などと協力して、講習会を開いています。

 タンデム自転車の走行は今年7月、東京都で解禁され、ついに全国どこでも走れるようになりました。一体感が味わえるこの乗り物の利用を通じて、障害者と健常者が互いにより理解を深められるよう、活動を続けていきます。(聞き手・長原和磨)

つが・かおる 1951年、愛媛県北条市(現・松山市)生まれ。理事長を務める認定NPO法人「タンデム自転車 NONのん ちゃん 倶楽部くらぶ 」の「のんちゃん」は、夫の愛称。今年、内閣府の「女性のチャレンジ賞」を受賞した。

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