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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

愛犬ココちゃん 特養に入居した飼い主とつかの間の再会 互いに淡々としていたワケは?…見ていると切なくなる

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愛犬ココちゃんとつかの間の再会をかなえて旅立った入居者…何度も別れを繰り返し、一緒だった3か月は宝物に

今回も杉野さんは戻ってくると信じているのかもしれないココちゃん(「さくらの里山科」で)

 ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」では、この夏、とっても切ない、つかの間の再会がありました。

 今年5月初めに入居した杉野浩二さん(仮名、80歳代男性)は、残念ながら、愛犬のココちゃん(コーギー犬、メス、11歳)と一緒の入居ではありませんでした。犬と一緒に暮らせる2-2ユニット(区画)が、介助が必要な高齢犬ばかりになって犬の定員を5匹から4匹に減らしていたため、犬の定員がいっぱいだったのです。

 もちろん杉野さんは当初、ココちゃんと同伴入居することを希望していました。しかし犬の定員が空くのと、2-2ユニットの居室が空くタイミングが一致するのを待っていると、いつ入居できるかわかりません。そこで、居室が空いた時に、まず自分が先に入居して、犬の定員が空いたらココちゃんを呼び寄せることにしたのです。

 そもそも、ここ1年間、杉野さんはココちゃんと一緒に生活できない状況でした。杉野さんの体調が悪化し、入退院を繰り返していたので、ココちゃんは別居する家族が預かってくれていたのです。ですから、どのみち、ココちゃんと今一緒に暮らせないのなら、一足早く自分だけホームに入って、ココちゃんを待とうと決めたのでしょう。

 杉野さんが待つ時間は長くはありませんでした。2-2ユニットで暮らしていたミックス犬のサリーちゃんが死んで、犬の定員が空いたのです。その結果、ココちゃんは6月下旬に入居することができました。杉野さんは、1年以上一緒に暮らせなかったココちゃんと、再び同じ屋根の下で暮らせるようになったのです。

 杉野さんとココちゃんの再会は、涙なくしては見られない感動的瞬間だった、というわけではありません。かつて、同じような状況で入居者の角井ハルさん(仮名)と愛犬のベラちゃんが再会した時は、居合わせた職員が皆もらい泣きしてしまったのですが、それとは全然違っていました。ココちゃんは、トコトコとごく自然に杉野さんの車いすの元に歩いていき、杉野さんもごく自然に手を伸ばして頭をなでてやっていました。それだけです。ココちゃんは、鳴き声を上げたりしませんでしたし、杉野さんも涙を流したりしませんでした。

 でも、その自然な再会シーンは、お互いの深い信頼感があってのことだと思います。ココちゃんは、何があってもおじいちゃん(杉野さん)は必ず帰ってくる、と心から信じていたに違いありません。だから、切ない鳴き声なんて上げる必要がなかったのです。杉野さんにとっても、ココちゃんがいるのは当たり前のことだったのでしょう。だから涙は出ないで、ごく自然な笑顔を浮かべたのでしょう。

 それから“2人”は一緒の生活を取り戻しました。夜、ココちゃんは、杉野さんのベッドの隣に置かれた自分のベッドで寝ています。朝になると、一緒にリビングに出てきます。日中はいつも一緒にいるわけではなく、ココちゃんは、杉野さんの車いすの下に潜り込んで寝ているかと思えば、テーブルの周りをうろうろして、他の入居者になでてもらって喜んだりしていました。杉野さんは、ココちゃんがいない間、トイプードルのサンタ君におやつを上げる役割を引き受けていたのですが、それはココちゃんが来てからも変わりませんでした。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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