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ため池から「思わず声上げる」腐敗臭、鳥インフルで41万羽埋めた穴から液体漏れ出たか
高病原性鳥インフルエンザの発生が昨冬に相次いだ鹿児島県出水市のため池で、殺処分した鶏の埋却が原因とみられる悪臭や白濁が生じ、県は25日、周辺住民の意向を踏まえ、異例の対応となる別の場所への埋め直しを始めた。県は11月中に埋却を終えたい考えだ。専門家は「いつどこで起きてもおかしくない」として、再発防止の仕組みづくりを求めている。(小川晶弘)
作業に遅れ

新しい埋却地で始まった埋却物の移設作業(25日、鹿児島県出水市で)=鹿児島県提供
水田や住宅が並ぶ出水市野田町 下名 。この地域に、木々に囲まれたため池(外周約140メートル)がある。
異変が起きたのは昨年12月中旬。住民から「悪臭がする」と県に苦情があり、担当者が確認したところ、水面が白っぽい膜状のものに覆われ、腐敗臭がした。記者が複数回、現地を確認したところ、少なくとも初夏までは、思わず声を上げてしまうような不快な臭いが漂っていた。
近くの養鶏場では昨年11月下旬に鳥インフルエンザが発生。殺処分された約41万羽の鶏や卵などは、池から約300メートル離れた場所で、ブルーシートを敷いた深さ5メートルの穴に埋められた。その後、埋却物を含んだ液体が地中を通ってため池に流れ込んだとみられている。
県は今年1月、埋却物を東に約100メートル離れた場所で埋め直すことを住民に通知。当初は3月、その後も7月までに完了を見込んでいたが、埋却工法の検討などで作業が遅れていた。
県は25日、ようやくこの埋却地を掘り返し、遮水シートや保護マットを敷いた新しい埋却地に重機で移設する作業を始めた。県畜産課は「早く完了できるように進めたい」とした。
自治会長の男性(65)は「次の鳥インフルエンザの時期が来るまでには終わらせて、元の状態に戻してほしい」と求めている。
農家不安
ため池から小川を通って流れ下った汚水は、近くの川に合流する。地元の農家5戸は元々、この川から取水してコメを作ってきた。
農家の一人の男性(66)は今季、水質や臭気に不安を抱き、別の小川にポンプを設置。くみ上げた水は管で 迂回 させ、5戸の水田に流している。男性は「台風などで川の水があふれれば、汚水が田に流入する恐れがある」と話す。

県は、これまで取水してきた川の水質検査を基に「水稲作には影響のない水質」としているが、男性は「ため池の汚泥を全部出してもらわないときれいな水にはならない」と話す。塩田康一知事は5月に現地を視察した際、住民に謝罪した。ただ、農家が求めてきた補償については、県は現時点で応じていない。
宮崎県日向市でも今年2月、埋却地近くで濁った水が漏れ出た事例が判明したが、農林水産省の担当者は「埋却物を埋め替える他の事例は承知していない」と話す。
鹿児島大の宇那木正寛教授(行政法)は「全国どこでも起きうるので、特殊事例として片付けられない。鹿児島は全国有数の畜産県なので、県は率先して、部内や専門家を交えて最終処分のあり方や基準づくりを検討し、再発防止につなげるべきだ」と指摘している。
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