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スポーツDr.大関の「ムーヴ・オン!」

 「する」「みる」「支える」のどの立場にあっても、スポーツは生活を彩り豊かにしてくれます。しかし、スポーツにけがはつきもの。けがを予防し、笑顔で楽しむために必要なスポーツ医学の知識を、整形外科医の大関信武さんが伝えます。

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大谷翔平選手、肘の再手術後の研究報告を調べると…二刀流復帰は大変なことだが期待はできる

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 エンゼルスの大谷翔平選手が2度目の肘関節内側副 靭帯(じんたい) の再建術を受けたというニュースが駆け巡りました。8月のレッズ戦で途中緊急降板し、右肘の靱帯損傷の診断がつき、再度手術を受ける可能性が取りざたされていました。2度目の手術後の経過はどうなるのか、手術内容について限られた情報しかありませんが、研究報告を元に考えてみます。結論から言えば、大変ではあっても、大谷選手のことですから、これまで通り二刀流の活躍は期待できる、ということです。

再手術で元と同じレベルに戻れたのは55~69%

大谷翔平選手、肘の再手術後のデータを調べると…二刀流復帰は大変なことだが期待して待ちたい

声援に応える大谷翔平選手(AP)

 手術は前回執刀したドクターが行ったようですが、肘の手術の具体的な内容は明らかにはされていません。しかし、自分の腱を用いた再建術とは異なり、今回はインターナルブレースという補強を行ったという記事が出ています。果たして2度目の手術後の経過はどうなるのか、インターナルブレースとは何なのかをひもといていきましょう。

 英語でrevision surgeryという言葉が再手術を意味しますが、2回目の再建手術を日本語では再々建術と呼びます。肘関節内側副靭帯の再々建術の術後成績に関して、英文の医学雑誌にいくつか報告があります。2010~2016年に行われた米国のプロ野球選手69人の報告では、投手で復帰できた割合が77%、元と同じレベルの投手に戻れた割合が55%(参照1)。復帰までの期間は平均484日でした。

 5本の研究論文をまとめたシステマティックレビューでは、メジャーリーグの投手が再々建術を受け、術前レベルに復帰する割合は69%でした(参照2)。1度目の手術後に同レベルで復帰できるのは67~87%という報告(参照3)がありますから、一度目よりも2度目の手術後の同レベルでの復帰率は低くなる傾向があります。しかし、再々建術を受けたピッチャーの速球の速度は、術前と変わらなかったという研究報告もあります(参照4)。

インターナルブレース補強とは

 次にインターナルブレースですが、これは人工靭帯のことです。肘に限らず、足や手などの靱帯を修復する際にも用いられます。人工靱帯の両端を骨に挿入するアンカーで固定することで、しっかりとした安定感を得られることが、生体力学的な研究でも示されています(参照5)。

 臨床成績の報告はまだ少なく、初回手術として良好な成績が得られたという報告はありますが(参照6)、プロの選手でのまとまったデータはありません。また、再手術の成績となるとより分からなくなります。ましてやそれが二刀流の選手の場合となると、もう誰も踏み込んだことのない領域と言えるでしょう。

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大関 信武(おおぜき のぶたけ)

 整形外科専門医・博士(医学)、読売巨人軍チームドクター、日本スポーツ医学検定機構代表理事、日本スポーツ協会公認スポーツドクター

 1976年大阪府生まれ、2002年滋賀医科大学卒業、14年横浜市立大学大学院修了。15年より東京医科歯科大学勤務。野球、空手、ラグビーを経験。スポーツ指導者などへのスポーツ医学知識の普及を目指して「スポーツ医学検定」(春、秋)を運営している。東京2020オリンピック・パラリンピックでは選手村総合診療所整形外科ドクター。

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