知りたい!
医療・健康・介護のニュース・解説
肥満で「脂肪肝」になると肝臓がんのリスクが高まる!…酒を飲まない人も要注意
新型コロナウイルス感染症が、感染症法上の「5類」に移行した2023年、国内には久しぶりに「夏らしい夏」が戻りました。帰省や旅行などでおいしいものをたくさん食べたという方も多いと思います。「食欲の秋」を前に、食べ過ぎると心配なのが肥満ですが、肝臓がんの発症リスクを高めるといいます。どういうことなのか、東京大学医学部准教授(消化器内科)の建石良介さんに聞きました。(聞き手・染谷一)
肝臓がんの主要因は、肝炎ウイルスではなくなってきた
――肥満が、がんの原因となるというのは意外です。
肥満は、大腸がんや 膵臓 がん、肝臓がんの原因になり、糖尿病は、肝臓がんのリスクを高めます。どちらも背景にあるのはメタボリックシンドロームです。
――肝臓がんの原因は、ほとんどがB型やC型といった肝炎ウイルスなのではないですか?
少し前までは90%がウイルス性肝炎からの発症でした。しかし、最大の原因だったC型肝炎は、薬剤治療でほぼ治るようになり、その構図は大きく変化しました。
肝臓がん全体の患者数は減少傾向にありますが、肝炎ウイルスが原因ではない患者は、過去20年で5倍ぐらいに増えています。多くは、肥満が関係した「非アルコール性脂肪肝炎( NASH )」が要因です。脂肪肝は、肝臓に脂肪が多くたまった状態で、お酒をあまり飲まなくても進行するのがNASHです。
「NAFLD」から「NASH」 発がん率は10倍に
――なぜ、脂肪肝が、がんの原因になるのですか?
肝臓に脂肪がたまると炎症が起き、肝臓の細胞が硬くなる「線維化」が起こったり、細胞ががん化したりします。
ちょっと専門的な話になりますが、脂肪細胞はエネルギーを蓄える以外に「アディポカイン」という一種のホルモンを分泌します。食べ過ぎてメタボになると、アディポカインのうち、炎症を促進する「悪玉」が増え、炎症や発がんを抑える「善玉」は減少します。慢性的に炎症が起こる状態になると、さまざまながんが起こる危険が高まります。
また、肥満になると腸内環境が変化して細菌のバランスが乱れます。食事をすると、腸管の血液は肝臓に集まります。腸内で発生した、体に悪影響を及ぼす物質の処理を肝臓が請け負うことになるため、細胞が傷めつけられてがんを発症するわけです。
――脂肪肝の人はどのくらいいますか。
人間ドックのデータによると、脂肪肝の人は増加しており、男性の約30%、女性の15~20%に見られます。飲酒も脂肪肝の原因になりますが、1人あたりのアルコール摂取量は減ってきているため、NASHの前段階である「 NAFLD 」の人が増えていると考えられます。
NAFLDは、脂肪が肝臓の細胞に沈着する状態です。この段階なら発がん率は年0.1%未満ですが、炎症が伴うNASHに進行すると、約10倍に跳ね上がります。
NAFLDの状態から、10~15%がNASHになると考えられています。ただ、NAFLDの中で、どういう人がNASHになるかは完全には分かっていません。遺伝的要因が関わっている可能性も指摘されています。
1 / 2
【関連記事】