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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

神経性やせ症で入院した小6女児…お母さんが面会で髪を編んでくれたことが回復のきっかけに

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神経性やせ症で入院した小6女児…お母さんが面会で髪を編んでくれたことが回復のきっかけに

 子どもたちの心と髪とが深い関係にある――。そんなことを教えてくれた女の子がいましたので、ご紹介します。

 真子さん(仮名)は、両親、4歳違いの妹との4人家族です。幼稚園時代から手のかからない子で、登園の準備も一人でしていました。小学校に上がると、誰とでも仲良くし、勉強にも熱心に取り組んで成績はいつもトップクラスでした。

 ところが、高学年になると,クラスの中にできた女の子のグループになじめず、休み時間を一人で過ごすことが多くなりました。

 6年生になってからは、ご飯やパンを食べず、野菜とヨーグルトだけを取るようになりました。体重が減り、小児科を受診しましたが、体の病気ではないと言われました。そこで、6年生の5月にお母さんに連れられて思春期外来を受診したのです。

 診察室に入った真子さんは、やせがとても目立ちました。うつむいたままでほとんど話をしてくれません。お母さんからこれまでの経過について聞くことにしました。

 「真子は太ることを嫌がり、炭水化物をまったく口にしません。もっと食べるようにと言うと怒り出します。食べないのに、いつも体を動かして運動をしています。生理も止まってしまいました。幼い頃から手のかからない子で、私に文句を言ってくるようなこともありません。これまで心配することは何もありませんでした」

 真子さんは、神経性やせ症ということで、お母さんに同伴してもらい、定期的に通院することになりました。

お母さんに編んでもらった髪を看護師に自慢げに見せた

 通院開始後も真子さんの食欲低下は続き、体重はますます減少しました。そのため、6年生の8月の夏休みを利用して入院することになりました。入院時の身長は153センチ、体重は27キロで、標準体重の6割弱程度しかありませんでした。

 入院後、真子さんは食事をほとんど取らず、病室で勉強ばかりしていました。看護師と話すこともほぼなく、入院1週間後から点滴が始められました。

 お母さんは週1回の頻度で面会に訪れていましたが、入院して2週間目、たまたま真子さんの入浴日に来院しました。入浴終了後、いつもは看護師さんが真子さんの髪をドライヤーで乾かしていましたが、この日はお母さんにそれをしてもらうことにしました。

 お母さんは、真子さんの髪を乾かすだけではなく、真子さんの髪を三つ編みにしてくれました。その際、親子で鏡を見ながら楽しそうに会話もしていました。

 「真子とこんなに話ができたのは久しぶりです。自宅で真子の妹の髪を結うことはありましたが、真子は一人で何でもできるので、髪に手をかけることがありませんでした。本当は真子も髪を編んでほしかったのかもしれませんね」

 お母さんは、こう話していました。

 その後も、お母さんは、真子さんの入浴日に面会に訪れては髪を乾かし、編むことを繰り返しました。真子さんは、毎回、うれしそうにしていました。そして、お母さんに編んでもらった髪を看護師に自慢げに見せてくれました。

 そのような入院生活を送る中で、真子さんは、看護師ともよく話すようになり、食事の量も増え、入院2か月後に体重は34キロに。その後は無事に退院し、通院を続けました。

 中学校入学後に真子さんが、入院中のことについて語ってくれました。

 「入院中、お母さんが私の髪に優しく触れ、髪を編んでくれて、かわいくなっていく時間が好きでした。お母さんと2人だけでおしゃべりできるしね。それまで、お母さんに甘えてばかりいる妹をいつもうらやましく思っていました。お母さんは退院後もずっと私の髪を編んでくれています。その時だけはお母さんを独り占めできるのです」

 真子さんは、その後も再発することなく、生活を送っています。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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