わたしのビタミン
医療・健康・介護のコラム
医療的ケア児をもつ家族に「ほっと一息」を 看護・介護を担う法人代表…自身の長男は脳性まひ
障害児らとその家族を支えるNPO代表理事…中畝治子さん(72)
看護師やヘルパーが障害児や医療的ケア児の自宅を訪問し、看護や介護をする横浜市のNPO法人「レスパイト・ケアサービス 萌 」で代表理事をしています。ケアに追われる家族に、ほっと一息つける時を提供したい。そんな思いで活動しています。
家族、とくにお母さんは気の休まる間がありません。たんの吸引や食事、 排泄 などのケアが深夜に及び、寝る時間も削られてしまいます。愛しているからこそ面倒をみたい。でも、その思いが家族を追い詰めることもある。ケア中心の家庭で、きょうだいたちは、さみしい思いを抱いても、ため込んでしまう。
1984年7月に生まれた自分の長男は、脳性まひで手足や体を動かせない重症心身障害児でした。
それまで夫婦で日本画の修復や模写の仕事をしていましたが、ケアもできるほど時間もエネルギーもありません。だから、NPO法人の前身のボランティア団体や、ヘルパーの派遣団体が、自宅で長男を世話してくれました。
思い出すのは、長男の弟と妹が保育園児だった時のことです。保育園の運動会を長男も観覧できるよう、スタッフが会場でケアしてくれました。家族全員で楽しめ、とってもうれしかった。「とじこもりがちな家族に、風を呼び込む窓のようだ」。スタッフを頼もしく思いました。
短大で教壇に立っていた2019年6月、NPO法人の冊子に表紙絵を描いたことなどが縁となり、代表理事職を任されました。かつて自分が受けとった「安らぎ」を若い世代に届けたい。そう考えて引き受けました。
団体名の「レスパイト」とは「休息」を意味する介護用語です。お母さんと家族にゆっくり休んでもらうため、NPO法人では医療保険による訪問看護と、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスなどを組み合わせ、スタッフが3時間程度、利用者宅に滞在しています。
制度上、訪問看護で医療的ケアや排泄ケアなどを受けられるのは1回あたり1時間半程度です。それだと、お母さんは十分に休めません。そこで、訪問看護の時間が終わった看護師がヘルパーとして残り、さらに家族を支援できるようにしています。
自分では看護や介護の資格を持っていませんが、スタッフに付き添い、利用者宅を訪ねています。「ゆっくりできた」。家族の喜ぶ声を聞くと、心からよかったと思います。訪問先のかわいいお子さんたちに癒やされてもいます。
医療的ケアを巡っては、21年6月に支援法ができ、今後も環境整備が進むでしょう。でも、ずっと前から多くの支援者が当事者と家族に協力してきたから今がある。ただ、支えたい。その思いを忘れずにいたいと考えています。(聞き手・高田真之)
なかうね・はるこ 1951年、東京都出身。東京芸術大学大学院修了後、古典絵画の模写事業などに従事。画家、イラストレーターとしての活動のほか、夫、常雄氏と2008年11月、重症心身障害児の長男を含む子ども3人の子育て記を出版。立教女学院短大の教授などを経て、19年6月から現職。
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