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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

子どもが窒息死する危険性がある食べ物は…9月以降、気を付けたいお弁当の中身

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事故検証には食べ物の情報が必要

 窒息事故が起きると、地方自治体による検証が行われます。しかし、これまでに行われてきた検証は必要な情報が欠けています。最も重要な情報は、窒息を引き起こした食べ物の情報です。リンゴ片による窒息であれば、リンゴの種類、その調理法、例えばどれくらいの大きさに切ったか、どういうおろし金ですりおろしたのかを知ることが必要です。情報は、文字だけで記録するのではなく、写真や計測値が必要です。

 2023年4月、鹿児島県 姶良(あいら) 市の6か月の女児が、すりおろした生のリンゴを食べた後に意識不明になり、死亡した事例がありました。地元新聞によると、7、8ミリの穴があいたすりおろし器を使ってすりおろしたとのことです。それならば、リンゴの小片ができて、6か月児の気管に詰まる可能性があります。

 同じ種類のリンゴを、同じすりおろし器で調理して再現することは簡単にできます。写真に撮り、スマホの3Dスキャナー機能でリンゴ片の計測値を得ることもできます。詰まったものを本人の口から取り出すことができた場合は、それも写真に撮り、計測しておきます。

 次に重要なのは、子どもの情報です。月齢・年齢、身長・体重、本人の小指の直径(本人の気管の太さに相当)、ふだんの嚥下の状況、発症時の様子(泣き切った直後など)の情報が必要です。

 さらに、窒息を引き起こした食べ物の物性値の測定も必要です。嚥下困難者向け食品の評価として、食材の硬さ、付着性、 凝集(ぎょうしゅう) 性と呼ばれる物性値が用いられていますので、それらを参考に、食べ物の客観的な評価尺度を開発し、窒息を引き起こした食べ物について計測します。

同じ食べ物で窒息事故が起こっていた

事例1: 2010年2月10日、栃木県 真岡(もおか) 市の小学1年生の男児が給食で出された白玉汁の白玉を吸い込んで窒息して脳死状態となり、約3年後に死亡した。

事例2: 2012年7月17日、栃木市の保育園で、2歳の女児がおやつで出されたフルーツポンチに入っていた白玉団子をのどにつまらせ、約1か月後に死亡した。

 栃木市が設置した 事故調査委員会の報告書 には「真岡市の事故の情報が生かされなかったのはなぜか」という記載がありますが、白玉団子の組成については「上新粉ではなく、うるち米・もち米を原材料とする冷凍のもの」という記載があるだけで、細かい組成は記載されていません。どちらも同じ会社が作った白玉団子で、その組成、調理法のデータがあれば、窒息しやすい条件を検討することができたはずです。食べ物で窒息死が発生した場合は、また起こると考え、その食べ物について優先的に検討する必要があります。

 手作りの食べ物による窒息であっても、原材料の量、調理法を詳しく記載しておく必要があります。これらのデータを1か所に集め、「食べ物による窒息データベース」として、いつでも、誰でも見ることができるように整備する必要があります。

嚥下シミュレーションの利用

 嚥下について、ヒトを使って再現実験をすることはできません。そこで、コンピューター上で嚥下のシミュレーションができるシステムが開発されました。食べ物による窒息のデータを活用すれば、それぞれの食べ物についてある程度の危険性を判定することができるようになるのではないかと期待しています。

 いずれは、新しい食品が開発された場合、このシステムに形状値や物性値を入れてリスクを評価することができるようになるといいと思います。

 今回は、私が考えている予防策についてお話ししました。保育管理下だけで食べ物による窒息が発生しているわけではありません。一般家庭で起こった場合はニュースにならないだけで、一般家庭でも同じことが起こっているはずです。誰もが、食べ物による窒息についての知識を持っておく必要があるのです。その知識を普及させるために、いろいろな機会、手法を使って継続的に啓発していくことが必要だと考えています。(山中龍宏 緑園こどもクリニック院長)

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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