山中龍宏「子どもを守る」
医療・健康・介護のコラム
子どもが窒息死する危険性がある食べ物は…9月以降、気を付けたいお弁当の中身
ミニトマトやブドウ、豆、白玉などの小さな食べ物をのどに詰まらせて子どもが窒息する事故が後を絶ちません。どうしたら、このような事故を予防できるのかを考えていきたいと思います。

イラスト:高橋まや
豆まきで4歳児が窒息
基本的な知識として、「いったん食べ物がヒトの口に入ると、外部から 嚥下 をコントロールすることはできない」ことを理解しておく必要があります。「お子さまがのどにつまらせないよう必ずそばで見守ってあげてください」と食品などの包装に表示されていますが、見守っていても窒息を予防することはできません。
2020年2月、松江市の認定こども園で豆まきの豆により4歳児が窒息死しました。この事故を受けて、私たちのNPO法人「Safe Kids Japan」(SKJ)では、日本ピーナッツ協会に対し、豆の袋に「4歳未満の子どもに食べさせないでください」という注意書きを掲載してほしいとの要望書を出しました。その結果、2020年末から、それまでの「そばで見守ってあげてください」という表記が変わり、一部の豆の袋には、赤い字で「4歳未満のお子様には食べさせないでください」と記載されるようになりました。
その後、消費者庁の指導があり、現在は「5歳以下の子どもには食べさせないでください」という注意が書かれています。( 写真 )
行政、メディア、司法の役割
食べ物による乳幼児の窒息を予防するためには、いろいろな機関や組織の取り組みが必要です。
保育管理下で重大事故が発生すると、こども家庭庁をはじめ、各自治体の担当課から注意喚起の事務連絡が度々行われていますが、1か月もたたないうちに、また同じ事故が発生しています。行政は「うちの担当ではない」と関知しないか、「通知を出したことで責任を果たした」と思っているようですが、そのような対応では予防できません。
国は、地方自治体に任せるのではなく、運輸安全委員会のシステムを参考に、食べ物による窒息の専門家を登録しておき、重大事故が起こったら専門家を現地に派遣して検討してもらい、具体的な予防策を出してもらうようにする役割があると私は考えています。
2022年1~2月に、保育管理下で重大事故が発生しやすい状況について、 全国調査 が行われましたが、この調査は数年おきに行っていく必要があります。
同じような事故が起こっていないか
メディアの役割もあります。食べ物による窒息のニュースを報道するときは、当該事故の報道をするだけではなく、これまでにも同じような窒息事故が起こっていないかを調べることが必要です。そのうえで、現在行われている予防策の問題点を指摘することが重要です。
保育管理下で重大事故が発生すると、刑事事件として子どものそばにいた保育士や園長の責任が問われ、民事事件として損害賠償請求訴訟が行われています。しかし、訴訟では次の事故を防ぐことはできません。当事者以外の保育士は、自分の周りでそのような事故が起こるとは考えておらず、事故で有罪判決が出ても、それは「人ごと」でしかありません。事故防止の観点からいえば、司法の役割は限定的です。
食べ物の危険性周知は「モグラたたき」
食べ物による子どもの窒息を考えるとき、就学前の子どもと、小学生以上に分けて考える必要があります。小学生以上であれば、安全な食べ方を子どもに教えることができますが、就学前の子どもに食べ方の指導をしても有効ではなく、食べ物そのものについて検討する必要があります。
これまで、食べ物による窒息は「保育の問題」とされてきましたが、「食べ物の問題」としてとらえないと予防にはつながりません。食べ物による窒息の危険性を周知するためには、あらゆる機会をとらえ、あらゆる方法で、継続的に取り組むことが大切です。食べ物の危険性に気づいたら、すぐに対応する「モグラたたき」が必要です。
保育の場で、ミニトマトや大粒のブドウがそのまま提供されていることに保護者が気づいたら、園長に訴えましょう。ただ、保護者にとって、子どもが通っている園に対して、給食で出された食べ物の危険性を直接訴えることは大きな負担となります。そこで、園を管轄している地方自治体の担当課に相談窓口を設けて対応していただくとよいと思います。また、自治体は、園に対して抜き打ち監査を実施することも必要だと思います。
食べ物の危険性については、保育士だけでなく、配食サービス事業者、栄養士、保護者、祖父母などにも周知する必要があります。
2006年7月、静岡県東伊豆町の私立保育園で、園庭で栽培していたミニトマトを口に入れて窒息死した例があります。園に対してミニトマトの苗の配布を行っているところがありますが、代わりとなる野菜の苗の配布に変更すべきだと思います。
絵本に描かれているお弁当の絵を見ると、ミニトマトや大粒のぶどうなどがそのまま描かれている場合があります。これらはカットした絵に変更すべきだと思います。
お弁当の日、子どものお弁当にミニトマトがそのまま入っていたら、保育士から保護者に「切って与えて」とすすめましょう。
2020年9月、東京都八王子市の認定こども園の給食で出されたブドウ(直径約3センチのピオーネ)で4歳児が窒息死しました。SKJでは、お店で販売されているミニトマトやピオーネの包装紙に貼ってもらうシールを作成して配布しました(図)。このシールが、広く使用されることを願っています。
また、ミニトマトや大粒のぶどうを4分割にする器具の開発にも取り組みました。
日々、チェックするシステムを
幼稚園・保育園には検食簿がありますが、その代わりとして、提供した食事の写真を撮り、毎日、園のホームページに載せるとよいと思います。そうすれば、保護者や行政もチェックすることができ、その映像をAIで自動的にチェックすれば、危険性が高い食べ物を発見することができます。
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