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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

患者さんを看取るのはつらくないですか?

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患者さんを看取るのはつらくないですか?

イラスト:さかいゆは

 腫瘍内科医として、多くの患者さんと出会い、そして、お別れをしてきました。人生の最期の場面に立ち会い、お 看取(みと) りすることもよくあります。

 別れはつらく、悲しいものです。

 涙がこみ上げてきますし、無力さを感じることもあります。

看取りの時間は人生のフィナーレ

 患者さんを看取ることの多い腫瘍内科医は、燃え尽き症候群が多いという海外の報告もあります。

 病気を治して元気に退院する患者さんを見送るのが医療の本来の姿であり、患者さんを看取るのは敗北だという医師もいます。

 でも、私は、患者さんをお看取りすることや、死にゆく過程に寄り添うことは、医療の本質とも言える、とても重要な行為だと思っています。

 この世に生を受けた人は、いつか必ず死を迎えます。死はすべての人に等しく訪れるものであり、それは、けっして敗北なんかではありません。

 人生は壮大な物語であり、死にゆく過程はその物語のフィナーレです。死にゆく人は、家族など、大切な人たちとともに、これまでの物語を振り返りながら、最後の時間を過ごし、物語を完結させます。ここで、大切な人にバトンが受け渡され、亡くなったあとも、物語は、大切な人の心の中で生き続けます。

 この過程は、本人にとっても、大切な人にとっても、重要な意味を持ちます。人生の中でも、特に濃厚な時間です。

 医師として、その場面に立ち会い、時間を共有するのは、つらいことではありますが、やりがいのある、貴重な経験でもあります。

 主役は、ご本人やご家族であり、医師は黒子に徹するべきですが、患者さんの人生を支え、物語のフィナーレをよりよい形にするために、医師が果たすべき役割はそれなりにあると思っています。

患者さんやご家族にお話しすること

 フィナーレを迎えようとしている患者さんやそのご家族には、これから起こりうることや、それに対する心構えについてお話しします。

 患者さんやご家族からは、ご希望やお考えをうかがい、その人らしく過ごせるようなサポートをします。できるだけ穏やかに過ごせるように、苦痛症状の緩和には特に力を入れます。

 最期の場面で、心臓マッサージや人工呼吸などの「延命処置」を行うかどうかを話し合うこともありますが、自然な経過で最期を迎える方に延命処置を行うことはほとんどありません。

 多くの場合、死にゆく過程で、患者さんの意識は薄らいでいき、眠った状態になります。亡くなる前には、下あごを上げて、少し苦しそうに見える呼吸状態( 下顎(かがく) 呼吸)になります。

 ご家族には、次のように説明します。

 「お別れの時間が近づいているようです」

 「苦しそうに見えるかもしれませんが、これが自然な呼吸で、苦しいわけではありません」

 「聴覚や触覚などの感覚はちゃんと伝わっていますので、手を握って、声をかけてあげてください」

 あとは、ご本人とご家族が大切な時間をゆっくりと過ごせるように、医療者は部屋を出て、遠くから見守ります。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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