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医療・健康・介護のコラム
卵子提供を受けて生まれた娘に「本当のママじゃないくせに」と言われても…血のつながりを超えて幸せになった家族
皆さんは、子どもを授かろうとしてもできなかった場合、「不妊治療を」と考えるのではないでしょうか。
不妊治療は夫婦それぞれに精子や卵子が存在し、採取できることが条件です。けれども、生まれつき、あるいは病気などで精子や卵子がない場合や、あっても受精ができなくて、妊娠が望めないカップルもいます。その場合、できる方法は二つです。一つは養子や里子を迎えること。もう一つは、「非配偶者間」つまり、夫や妻以外の精子や卵子を用いる治療を行うことです。今回は卵子提供を受けて出産した友人のエピソードを紹介します。
「血がつながってないのに偉そうに言わないで」の言葉に…
私が設立した不妊治療に取り組む人を支えるNPO法人「Fine」では、年に1度、国際会議(現在は休止中)に出席して、世界各国の不妊治療の患者を支援する組織と交流や情報交換を行っています。
ここで出会ったアルゼンチン人の友人・エステラは、周産期心理学者で、ラテンアメリカでの不妊治療患者支援団体の創設者です。エステラには2人の女の子がいますが、彼女たちと血はつながっていません。1人は匿名のドナー、そしてもう1人は友人から、それぞれ卵子提供を受けて出産したのです。
エステラは、子育ての話を色々と聞かせてくれました。家では、卵子提供のことは幼い頃から子どもに話して聞かせていたといいます。
印象的だったのは、母娘ゲンカのエピソードです。娘から「ママなんか私の本当のママじゃない! 私と血がつながっていないくせに、偉そうに言わないでよ!!」と言われ、エステラは平然と「だから何だっていうのよ。ミルクを与え、おしめを替えて、育ててきたのは私よ。ご飯を作って食べさせて、ピアノを習わせて、学校に通わせてきたのは私よ。私が一番この世であなたを愛しているのよ! 文句があるならさっさと出ていきなさい!!」と返したそうです。
私がびっくりして「それで娘さんは出ていったりしないの?」と聞くと、エステラは「出ていくわけないわよ」とケラケラと笑いながら話していて、本当にすてきな子育てをしているなぁと思ったのでした。
「私はこんなに幸せ」と語る娘
ある日、エステラのもとに1組のカップルが卵子提供を受けようかどうか悩んで、相談にきたそうです。カップルは「子どもが、『本当の親じゃない』ことを知り、グレてしまったらどうしよう」と悩んでいました。
その話を高校生になったばかりのエステラの長女が耳にしていました。長女は、「卵子提供で生まれた子どもがどうなるか心配で悩んでいるなら、私を見たら安心するんじゃない?」と自分が2人に話をしようと提案してくれたそうです。
長女は「私はママが卵子提供を受けて産んだ子だけど、この通り、ごく普通の家族と何にも変わらない。私が元気で、毎日楽しく暮らしていて、ママとは時々どなり合ったり、クッションを投げ合ったりもするけど、私はママに愛されて育って、こんなに幸せです」とカップルに伝えました。2人は長女の話を大粒の涙を流しながら聞いていたそうです。
エステラはそのエピソードを、少し照れながら、でも本当にうれしそうに語ってくれました。この時の彼女の笑顔はいまだに忘れられません。
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