文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

医療・健康・介護のニュース・解説

[つながる]第4部 もう一つの居場所<下>都会にある築60年の古民家…「家族」をひと休みできる場所

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 子育てに疲れた時や、家族との関係がうまくいかなくて家にいるのがつらい時、「ゆっくりしていってね」とあたたかく出迎えてくれる場所が、東京のど真ん中にあります。「れもんハウス」は支援する人・される人という枠組みを超え、その場にいる人が肩書や役割を外した「その人」として大切にされる場所です。(田中文香)

食事して日常語り合う

 「さぁみんな、ご飯ができましたよー」

 枝豆入りのリゾットや冷製パスタなど、大皿に盛った料理をオギさんが次々と運んできた。台所からはチキンの焼けるいいにおいもしている。ゲームで遊んでいた子どもも、読書をしていた大人も集まってきて、小皿や箸を並べ始めた。

[つながる]第4部 もう一つの居場所<下>都会にある築60年の古民家…「家族」をひと休みできる場所

「ここのボタンを押すんだよ」。初めて会った中学生と4歳の子どもが、仲良くゲームを楽しんでいた

 「オギさん、このサラダおいしい! 味付けは何ですか?」「コンソメのジュレなの」「リゾット、食べてみたかったんです」

 7月下旬の平日の午後7時、「れもんハウス」のにぎやかな夕食が始まった。

 テーブルを囲む13人は年齢も、いま何をしているかもばらばらだ。不登校になっている小学生と母親、子どもと離れて暮らす若い女性、母親と2人暮らしの中学生、この場所を運営する女性たちやその知人――。

 オギさんこと荻野洋子さん(55)は、ふだんは都内の教会で事務職として働いている。月に数回、仕事帰りなどに訪れ、昔、海外で修業したこともある料理の腕をふるう。「毎日、ご飯を作ることに疲れている人もいる。ここではリラックスしてご飯を食べていってほしい。おいしく食べてくれると、私も楽しい」と話す。

 食事をしていると、急にリビングが暗くなり、コトコさんが、ろうそくを立てたケーキを運んできた。

 〽ハッピー・バースデー・トゥー・ユー。みんなで声を合わせて歌い、この日が誕生日の20代の女性をサプライズで祝福した。

 この場所は社会福祉士の藤田 琴子ことこ さん(31)らが東京都新宿区の住宅街にある築60年の古民家を借りて、2021年末に作った。20畳ほどの広さのあるリビングが、みんなの交流の場だ。

 「公的な制度で運営される施設だと、対象が限定されたり、制約があったりする。退所後の母子が地域でつながる先を増やしたい」

 琴子さんは、家庭内暴力や生活困窮でサポートが必要な母子が暮らす母子生活支援施設で働く中でそう感じた。支援する・されるという関係でなく、気軽に立ち寄って、日常のことを話せる場所を作りたかった。

 「家にいるのがつらいなら、泊まっていけばいいよ」と言えるように、宿泊用の個室も用意した。

 運営メンバーの仲間と代わる代わるこの場を開く。琴子さんは今年から施設の仕事を週1日に減らし、ほぼ毎日通う。運営費は、寄付や助成金、居住スペースの家賃などでまかなう。

 琴子さんの友人・知人のつながりや、母子生活支援施設を退所した母親と子ども、SNSでのやりとりがきっかけで加わった若者など、この場所を必要とする人の輪が広がっている。

 ケーキ作りが得意な人に生クリームの塗り方を教わったり、ラーメン店のようにスープから時間をかけてラーメンを作ったり――。

 会社員の女性(47)は、ここでそんな時間を過ごす中学生の息子(12)に、「年の離れたお兄さん、お姉さんと楽しそうにしながら、いろいろな経験をさせてもらっている」と目を細める。

 親子2人で暮らしている。「仕事と家事でいっぱいいっぱい」だという日常は、家で2人きりで過ごす時間が長かったコロナ禍の頃は特につらく感じた。

 昨年春、育児疲れやひとり親の出張時などを対象とした新宿区の「子どもショートステイ」事業で、れもんハウスに息子を預けたのをきっかけに、その後も時々、みんなと話しながら食事をするようになった。「近所に親戚の家ができたような感覚」で、少し、気持ちが楽になったという。

 「家族は助け合うもの」という価値観が根強くある社会で、「『家族』をひと休みできる場所があっていい」と琴子さんは言う。

肩書外し 個人として大切にする場

 実家の親と関係がよくなくて距離をとりたい若者、繰り返される日常に疲れてつい子どもに声を荒らげてしまう母親もいる。

 役割や関係性の前に、例えば、「母親」という肩書も外して、ここではリラックスしてほしい。だから、子どもと一緒に参加している人も、「○○君のお母さん」と呼ぶことはない。

 一緒に食事をしたり、お茶を飲んだりする時もニックネームで呼び合うから、居合わせた人同士は何か月もたって、フルネームや、何をしている人なのかを知ることもある。

 肩書より、自分は何をしている時が楽しいかや、他人との距離感はどれくらいが心地よいかという、その人の思いを大切にしたい。

 「『自分はかけがえのない存在だ』と感じてほしい。れもんハウスは、その人が個人として大切にされる場所、安心していられる場所であり続けたい」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事