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元「歌のお兄さん」杉田あきひろさん、覚醒剤で逮捕からの再起…がんも依存症も乗り越え、歌い続ける

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[杉田あきひろさん](下)薬物依存症と中咽頭がん 二つの病を乗り越えていく…音楽活動と福祉活動を続けながら

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 覚醒剤取締法違反に問われた裁判で、執行猶予付きの有罪判決となった杉田あきひろさん。長野ダルクでの厳しい生活を経て、音楽活動を再開しました。しかし、今度は中咽頭がんが見つかります。それでも福祉施設で働きながら、薬物依存、がんと二つの病気からの回復を目指し、音楽活動を続けています。(聞き手・斎藤雄介 撮影・中山博敬)

闇の中をもがく日々

[杉田あきひろさん]下 元「歌のお兄さん」逮捕からの音楽活動再開…「がん」も「依存症」も乗り越え、歌い続ける。福祉活動も

――ダルク(薬物依存症からの回復をサポートする施設)での生活は順調だったんですか。

 ダルクに来た日を、ぼくらは「バースデー」って呼ぶんです。2018年5月20日、2年目のぼくのバースデー。ある利用者の一言にいらだち、スイッチが入ってしまって、ぼくは長野ダルクを飛び出してしまいました。

 実はダルクに入った16年の9月に母が他界したんですよ。妹が電話をくれました。長野ダルク施設長の竹内剛さんから「実家に帰ってもいいし、ダルクに残ってもいい。自分で決めなさい」と言われました。ぼくは「いや、残ります。こんな姿を母の前にさらすことはできない」と参列しなかった。

 それがずっとしこりになって、その後、ますます自分で殻を作るような感じになった。

 まるで闇の中にいるような。ダルクで毎日、回復プログラムを受けながらも、先が見えない。保釈の際に、兄からの身元引き受けの申し出を断ってしまったし、大好きな母は死んでしまったし、独りぼっち。

 それで、ぼくは長野ダルクを飛び出して、母の墓参りに行きたいと思ったんです。

 購入したボロボロの車を運転して、実家に帰る前に妹のところに顔を出そうと思いました。

 「2年間、本当におれ、ダルクでがんばってきた」「でも、先が見えないし」「お母さんの仏前に手を合わせなかったことをずっと引きずっているし」。そんな感情で心がいっぱい。

 妹のところに電話してもつながらないんです。携帯はダルクに預けたままだったんで、妹の家の近くの公衆電話から何度も電話をかけて、何時間も。実は妹の家の電話番号は変わっていたんですね。

 雨が降ってきて、しばらくしたら妹の家にあかりが見えたんで、もうサプライズで行くしかないと家のピンポンを鳴らしました。

 「ごめん。来た」と言うと、妹は「あき。あんた何やってんの」と驚きましたが、「とりあえずお入り」と言ってくれました。

 ご飯をつくってくれて、そこにめいっ子が帰ってきたんです。かわいい大好きなめいっ子なんですけど、そのときに、ぼくを見て一瞬、目がおびえたんです。その後、すぐ笑顔になって、「あきちゃん」って言ってくれたんですけど、「ああ、こんなに怖がらせたのか」と思いました。

 妹と遅くまで話しました。ぼくは自分の話ばかり。

 2年間、ダルクで頑張ってきたから、もう認めてくれてもいいだろうと思っていましたが、「あんたが思っている以上に実家も大変だった」と言われて。小さな町で、歌のお兄さんの実家だとみんな知っている。それなのに、あんなことを起こしてしまって。

 「でも、やっぱり、お母さんのところに帰りたいから、あした行く」って言って、すぐ寝たんですよね。

 しばらくしたら、夜中の3時ごろ、実家の兄が車を5時間も運転してやってきました。「出てけ。二度と敷居をまたぐな」って言われて。

 妹は泣いていました。いつのまにか、おにぎりを握ってくれていて、毛布を持たせてくれて、「あんた、死んだらあかんで」って。まだ、寒いんですよ。ガソリン代もなくて、本当に行くところがない。おれ本当にもう行くところがないんだ、帰るところがないんだって、思い知らされました。

「これが本当の底付き体験」

――ダルクに戻るわけにはいかないんですか。

 とりあえず1泊、松本(長野県)のサウナに泊まったんですよ。この先どうしよう、どこに行けばいいんだろうと、考えて、考えて。長野ダルクに頭を下げようと思って、こわごわ電話しました。戻ることができましたが、飛び出したという負い目もありましたし、孤独も感じました。ほかのメンバーは「よく帰ってきた」って言ってくれたんですけど。

 あのときが、「本当の底付きだったな」と思います。依存症から回復するには、もうこれ以上落ちるところがないところまでいく「底付き体験」が必要だと言われるんですけど、兄に追い出されたのが、自分にとって本当の底付き体験なのかなと思います。

 それまで、自分をどこか上に見ていたんですよ。自分は依存症だけど、「こいつよりは回復している」「自分はまだマシだ」とか。いや、みんな一緒なんですよ。みんな依存症なんです。でも、自分は違うっていう言い訳をその時まではしていたと思うんです。

 そこから、本当に仲間を仲間だと思えるようになった。本当に自分に正直になった。帰るところもないし、東京に戻るのも怖いし、お金もないし、だれも救ってくれないし。もうここしか、長野ダルクしか居場所がない。ぼくの帰る道はない。

 そこから、本当にまたゼロから回復へのスタート。

 それから約1年ですね。あの1年はきつかったですね。

 でも、あの1年があったから、今でもクスリをやめ続けられているんだなと思います。

 音楽活動のお話がいただければ、やっていました。福祉団体や幼稚園、キリスト教会、村のイベント。びっくりするぐらい、いろんなところでうたいました。

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