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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

緩和ケアなんて受けたくありません。もう希望がないということですか?

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緩和ケアなんて受けたくありません。もう希望がないということですか?

イラスト:さかいゆは

 私は、抗がん剤などの治療方針について話し合うとき、「緩和ケア」についてもお話しします。

 説明に使う文書には、

 「どんな場面でも、『緩和ケア』は必ず行います」

 と書いています。

緩和ケアはネガティブなイメージ?

 この説明をするとき、「緩和ケア」についてどんなイメージを持っているか、患者さんやご家族に聞いてみることもありますが、ネガティブなイメージを持っている方が多いようです。

 「私は緩和ケアなんて受けたくありません。ずっと治療を続けたいんです」

 「緩和ケアを受けるっていうことは、もう私には希望がないということですか?」

 というように言われることもあります。

 緩和ケアには、次のような誤解があるようです。

  • がんに対して行うのは、「治療」か「緩和ケア」かのどちらか、二者択一である。
  • 「緩和ケア」は、「治療」をあきらめたあとに行うものである。
  • 「治療」には希望があるが、「緩和ケア」には絶望しかない。

「治療」か「緩和ケア」かの二者択一ではない

 私は、これらのイメージを 払拭(ふっしょく) できるように、説明していきます。

 「緩和ケアというのは、すべての人に行う、最も大切な医療です。症状があったり、不安があったりして困っている方がいたら、手を差し伸べる。それが医療の本質です。どんな場面でも当然行うものなので、緩和ケアをしない、という選択肢はありません。かといって押しつけるわけではなく、あくまでも自然に行われるものです。こうやってお話をしているのも、広い意味で『緩和ケア』なんですよ。治療か緩和ケアか、という二者択一で考えるものではなく、緩和ケアに加えてどのように治療をしていくのかを考えることになります。抗がん剤を使うときもお休みするときもあるでしょうが、緩和ケアは、どんなときでも、ずっと続けていきます」

気持ちをラクにするのも緩和ケア

 緩和ケアが具体的にどういうものかというと、痛みがあったら痛み止めを使う、というような「症状緩和」がまず挙げられます。身体的な症状というのは多種多様で、原因も様々ですので、それを緩和するためには、薬を使うだけでなく、放射線治療、手術、理学療法など、いろいろな方法を駆使して対処します。

 気持ちのつらさに対して、話を聞いたり、気持ちがラクになるような対処法を考えたりするのも、大切な緩和ケアです。抗がん剤治療などの治療方針に迷うときに、意思決定のサポートをするのも、抗がん剤治療の副作用対策をするのも、緩和ケアです。

 食事や運動など日常生活にかかわるアドバイスをしたり、仕事と治療を両立できるように支援したり、今の体の状態でできることを増やしていけるようなリハビリを行ったり、挙げればきりがないですが、患者さんが自分らしく生きるのを支えるためのすべてが緩和ケアと言えます。「緩和ケアとは、医療そのものだ」と説明することもあります。

 医師、看護師、薬剤師、公認心理師、理学療法士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなど、多くの医療従事者が緩和ケアを担います。患者さんが自分らしく生きるのを支える、という意味では、医療従事者に限らず、家族、友人、職場の同僚など、まわりの人たちも、緩和ケアを担う重要な存在となります。

 緩和ケアは、すべての人の手の届くところにあり、無限の可能性を秘めています。がん医療において欠かせないものですが、まだ十分に活用されていないように思います。

 緩和ケアそのものには、ネガティブな要素はほとんどないのに、誤ったイメージのために毛嫌いされているとしたら、とても残念なことです。緩和ケアは、自分らしく生きる支えになるものであって、うまく活用できれば、希望も見えてくるはずです。「絶望の医療」ではなく、「希望の医療」なのです。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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