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宮脇敦士「医療ビッグデータから見えてくるもの」

医療・健康・介護のコラム

脚がむくむ 水分を排出させる「利尿薬」を飲んでも改善しないのはなぜ?

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 「先生、脚がむくむのよ」。ある時、高血圧の患者さんが、そう訴えてきました。私が診療をしているクリニックでは、心不全や高血圧など、心臓に関わる病気の方が多く、こうした症状がある患者さんがよくいらっしゃいます。

むくみの「犯人」は

高血圧で脚がむくむ 治療薬を飲んでいるのに治らないのはなぜ?

 脚のむくみは、医学的には「浮腫」と呼びます。〈1〉心臓や腎臓の機能が悪くなっている〈2〉脚の静脈やリンパ管での流れが良くない――など、要因は様々です。

 浮腫は、薬の副作用で起こることもあります。その一つが、「カルシウム (きっ)(こう) 薬」という高血圧の薬です。この薬は安全性や効果が高く、日本を含め、世界中で広く使われています。血管を広げて血圧を下げるのですが、動脈の方に強く作用するため、静脈で血液が滞り、水分が血管の外にしみ出して脚がむくみます。

心臓や腎臓が悪いと…

 心臓や腎臓の機能が低下した患者さんでは、体の余分な水分を尿として排出する能力が落ち、浮腫が起こりやすくなります。そのため、水分を尿として排出させる「利尿薬」という薬が使われます。しかし、カルシウム拮抗薬が浮腫の原因である場合は、利尿薬を飲んでも、むくみはいっこうに改善されません。利尿薬は、血管からしみ出した水分には作用しにくいからです。

カルシウム拮抗薬VS他の高血圧治療薬

 カナダ・オンタリオ州の66歳以上の高血圧を持つ人で、カルシウム拮抗薬を新たに処方された4.1万人と、浮腫を起こさない別の高血圧治療薬を新たに処方された6.6万人を、処方後90日まで追って比べた研究があります (1)

 カルシウム拮抗薬を処方されたグループでは1.4%の人に「ループ利尿薬」が処方されていましたが、別の高血圧治療薬のグループでは、その割合は0.7%にとどまっていました。

 患者さんの病歴などの背景をそろえても、カルシウム拮抗薬を処方されたグループは、別の高血圧治療薬のグループと比べて、新規処方後90日以内で、利尿薬の処方は1.7~2.4倍ほど多いという結果でした。この差は、本来ならば不要であった利尿薬が出された可能性があることを示しています。

 こうしたことは私も知識として知っていましたが、この研究論文を読み、恥ずかしながら、実際に診療の場で思い至らなかった場面があったことを思い出しました。

 冒頭の患者さんは、このカルシウム拮抗薬を飲んでいました。次の診察の時、体重が変わらず全身の状態も悪くないことを確認し、試しにカルシウム拮抗薬を中止してみたところ、浮腫は改善しました。「先生のおかげで、むくみが治ったよ」と感謝の言葉をいただいたのは救いです。

 もし、思い当たるという方は、かかりつけの医師に相談してみるとよいと思います。(宮脇敦士)

(1)Savage RD,Visentin JD,Bronskill SE,et al.Evaluation of a common prescribing cascade of calcium channel blockers and diuretics in older adults with hypertension.JAMA Intern Med.2020;180(5):643-651.doi:10.1001/jamainternmed.2019.7087

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miyawaki-atsushi_prof

宮脇 敦士(みやわき・あつし)

 2013年、東京大学医学部医学科卒業、医師免許取得。せんぽ東京高輪病院・東京大学医学部附属病院で初期研修後、東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻にて、医療政策・応用統計を専攻し、19年に博士号取得。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室助教、UCLA医学部客員研究員を経て、23年7月から同大学ヘルスサービスリサーチ講座特任講師。大規模データを用いて良質な医療を皆に届けるにはどうすればよいかということを研究している。

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