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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

神経性やせ症で入院した女子高生 成績上位でも「勉強が好きではない」…病室でも問題集を開くのはなぜ?

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学校の一番ではなく、お母さんの一番になりたい!…やせ症になった女子高生の涙の訴えとは

 きょうだいがいることで、満たされない思いを抱きながら普段の生活を送っていた女子高校生がいました。この子を通して、きょうだいのいる家庭の子育ての難しさについて考えてみたいと思います。

 彩さん(仮名)は、お母さんと1歳違いの弟、3歳離れた妹と暮らしています。お父さんは営業マンで、この数年間は単身赴任で家を不在にしています。

 幼稚園時代の彩さんは、先生の言いつけをよく守る子でした。歌やお遊戯を覚えることが得意で、お遊戯会ではみんなの中心になって披露していました。年下の園児の面倒見も良く、自宅では弟や妹の世話をお母さんに言われなくてもしていました。

 小、中学校時代、平日は毎日、塾通いをしており、とにかく一生懸命に勉強していました。放課後も友達と遊ぶということはほとんどなかったそうです。

 高校入学後も、ひたすら勉強に励んでいました。定期試験では、いつも学年上位の成績。ところが、夏休み明けのテストの点数が思ったよりも悪い結果で、その直後から、食事の摂取量が極端に減り、体重も減少しました。高校1年の10月には生理も止まりました。そこで、近所の産婦人科を受診したところ、摂食障害を疑われ、思春期外来を紹介されたのです。

 初診時の彩さんは、「やせ」が目立ち、顔色も不良でした。主治医が何を聞いても、「元気です」「悪いところはありません」と答えました。彩さんの身長は157センチ、体重は30キロ(標準体重の約60%)でした。

 同伴したお母さんは「これまでしっかり者でまったく手のかからない子でした。そんな彩が病気になってしまい、驚いています。何が悪かったのでしょうか」と悩んでいました。

食事量が増えて点滴も中止に…面会に来たお母さんにはベタベタ甘え

 彩さんは、神経性やせ症ということで、通院治療を始めることになりました。

 定期的に通院しましたが、「やせ」は、ますます目立つようになります。学校の階段の上り下りができなくなり、体育の授業も休むようになりました。そのため、高校1年の11月に精神科に入院しました。

 入院後は、なかなか食事を取ることができず、高カロリーの点滴が開始されました。主治医ともほとんど話をしてくれません。問題集を開いて、ひたすら勉強に励んでいました。

 主治医は、彩さんとの治療関係を深めるため、オセロ、トランプ、ウノ(カードゲーム)などを始めることにしました。彩さんはそれらのゲームを嫌がることなく受け入れてくれました。主治医に負けると、とても悔しがっていました。

 入院2か月後からは、家族や学校のことを少しずつ話してくれるようになりました。

 「私は勉強が好きではないのです。お母さんに褒めてもらいたいから、しているだけです。弟や妹はお母さんに甘えてばかりいます。うらやましいと、いつも思っていました。私は学校での成績は上位ですが、学校で一番になりたいわけではありません。お母さんの一番になりたいだけなのです」

 彩さんは、こう言って泣き出しました。

 この頃から、彩さんの食事量は少しずつ増えて、点滴も中止になりました。面会に来たお母さんにはベタベタ甘えるようになりました。

 主治医との面接で、お母さんは、「弟や妹は甘えん坊で手のかかる子どもたちです。いつも私のことを頼りにしてきます。それで、お姉さんだからということで、彩を放っておいたのかもしれません。これからは彩との2人だけの時間を作って、もっと話を聞いてあげようと思います」と話しました。

 その1か月後、彩さんは無事に退院することができました。体重は46キロまで増えていました。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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