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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

社会人になって自閉スペクトラム症と分かった男性 診断後にほっとしたのはなぜ?…高校時代は学業優秀で大学は推薦入学

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みんなにとっての普通ではなく、自分にとっての普通でいたい…発達障害の子が大人になって気づいたこと

 発達障害の特性が「軽度」の子どもたちは、小、中、高校時代に目立った問題もなく学校生活を送ることが多いようです。しかし、卒業後、社会人になってさまざまな人と出会い、自分で考えながら仕事をしなければならなくなると、生きづらさを強く感じるようになり、職場での適応が難しくなる人もいます。今回は、そのようなケースの男子をご紹介したいと思います。

 裕太君(仮名)は、両親、3歳違いの弟と同居しています。幼稚園時代は一人でお絵描きをして過ごすことが多い子でした。数字を覚えることが得意で、車のナンバープレートに記載された登録番号などはすぐに覚えてしまいました。

 小・中学校時代は、まじめで融通のきかない子でした。「教室から出ていけ」と先生から言われて、本当に出て行ってしまったことがあります。数こそ多くはありませんが、仲のよい友だちも何人かいました。

 高校時代は学業成績が優秀。大学に推薦入学することができました。ところが、入学後が大変でした。大学の講義では先生が板書してくれないため、自分でノートを取らなくてはなりませんでした。裕太君は人の話を聞いてメモをすることが苦手なため、ノートを取ることができず、試験前になると友達のノートをコピーして何とか乗り切っていました。

 大学卒業後は一般就労で営業の仕事に就きましたが、すぐに辞めてしまいました。その後もいくつかの会社に就職しますが、長続きしません。相手の話を正しく理解できない、状況に合わせた行動ができない、仕事の内容を覚えられない、指示されないと動けない――などという理由で、どの職場も退職しています。

 裕太君はお母さんと一緒に精神科を受診しました。

自分の努力が足りないのではないことを知って安心した

 初診時の裕太君は、就職後の大変さを箇条書きにしたメモを持参しました。そこには、「指示を理解することができない」「会話の中で省略されている部分を想像できない」「忘れ物やミスが多い」「予期しないことが起きると非常に動揺する」ということが書かれていました。裕太君は、大学時代まで、不得意なことはありましたが、何とか乗り越えてきました。しかし、社会人になってからは、「苦手なことばかり要求され、生きづらさを強く感じるようになった」ということです。

 これまでの経過と現在の状態から、自閉スペクトラム症(ASD)と診断されました。病名を裕太君とお母さんに説明したところ、裕太君はとても安心したようでした。

 「みんなと同じようにできない自分は、出来損ないだとずっと思っていました。でも、自閉スペクトラム症だと分かり、自分の努力が足りないのではないことを知って安心しました」

 その後、裕太君は定期的に通院することになり、それと並行して、発達障害者支援センターを訪れ、就労に向けての相談も行うことにしました。

 通院を始めて2か月後、裕太君は就労支援事業所に通うことになりました。様々な障害があるために一般の職場で働くことが難しい人たちに、軽作業など本人の能力や希望に合った就労訓練、就労移行支援を行う場所です。

 通所を始めてからの裕太君は、「周りから何か非難されるのではないかといつもビクビクする必要がなくなりました。これまでは仕事に就いて普通のふりをしていることに疲れていました。今は、分からないのに分かったふりをしなくてもいいので、とても楽です。同僚が、みんな障害のある人たちなので,普通の人を演じる必要がなくなりました。みんなの普通ではなく、自分の普通でいいのだと思うことができるようになりました」と話していました。

 裕太君は通所を続け、現在は、障害者雇用での就労を目指しています。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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