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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

「食べられなくなったら何もしないで」と息子たちに話していた母 脳梗塞で管から水分・栄養補給 どうする?

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2度目の脳梗塞で改善望めぬ状況に

 特別養護老人ホームで暮らしていた80代後半の女性。脳 梗塞(こうそく) で当院(市中の総合病院)に入院した。今回は2度目の脳梗塞で、1度目は症状が軽く、同様に当院で治療をした。もともと緑内障をわずらい、弱視だったが、1度目の入院のときは、看護師のサポートにより、自分で何とかご飯を食べることができ、コミュニケーションも良好だった。

 2度目の脳梗塞では、刺激をしても覚醒せず、痛みや刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする状態。右半身はまひし、完全に脱力している。目線も合わなくなり、ベッド上の生活となった。急性期の治療で状態は安定したが、まひは残存し、改善が望めない状況。鼻から胃に通した管で水分・栄養補給や薬剤の投与を行っている状況だった。今後については、療養型病院への転院が検討されていた。

 女性患者は15年前に夫と死別し、長男と長女がいる。2人とも仕事が終わった後によく面会にきていた。ある時、長男より、「母は元気なとき、『食べられなくなったら、何もしないでほしい』と言っていた」と、看護師に話があった。続けて長男は「その鼻の管はもうやめてもらうことはできないか」と話した。看護師は、「妹さんも同じ考えなのですか」と聞いてみると、長男は「妹も母の言葉を聞いているはず」という。

 さて、どうするか。

明るくてよくしゃべる気丈な人だった

 この女性患者の主担当であった看護師は、1度目の入院からずっとかかわりをもち、本人はもとより、長男、長女とも、患者のことや今後についてよく話をしてきました。1度目の入院時、患者は話し好きで、目が不自由であっても自分でできることは人に頼らず、自分で行っていました。長男は本人について「明るくてよくしゃべる人だった。若いころはしっかりした気丈な母親だった」と言っていたといいます。

 またこの長男の言葉を聞いたとき、看護師は「話し好きな人が話すこともできず、気丈だったのに身の回りのすべてを人に頼っている、今の状況を本人はどう感じているだろうか」と思ったそうです。

 まず、看護師は長男がどんな思いなのか、よく話を聞いてみました。そうすると、「最初は助かってほしいと思い、いろんなことに同意し、よくわからなかった。でももう3週間たって、なんかこれがずっと続くのかなと思って。口もあきっぱなしで、とても苦しそうだし、むくんで手もパンパンで」と話しました。看護師は、「私たちもなるべくご本人が楽でいられるようにはしています。ご本人が実際どこまでつらいかはわからないですが、 たん をとるときは苦しいだろうと思います。いつまで続くのかは、私たちにもわかりません……」と答えました。

 看護師が「『食べられなくなったら何もしなくていい』というのはいつ聞いたのですか」とたずねてみると、「最初の脳梗塞のあと、妹もいるところで、おふくろは『食べられなくなったら、何もしなくていいからね』と言ったんだ。妹にも聞いてみてほしい」と言います。

 看護師は「私たちも聞いてみます。直接、その思いを妹さんに話してみてください。私も主治医や他のスタッフにお話ししてみますね」と答え、その日の話は終わりました。

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tsuruwaka-mari

鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)。映像教材「終わりのない生命の物語3:5つの物語で考える生命倫理」(丸善出版,2023)を監修。鶴若麻理・那須真弓編著「認知症ケアと日常倫理:実践事例と当事者の声に学ぶ」(日本看護協会出版会,2023年)

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1件 のコメント

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食べられなくなったら何もしないで

マウマウ

私も同感です、自然死が本来のあり方だと思います。残された人の中には罪悪感を抱く方も多いと思いますが、本人の意思を尊重したということで罪悪感は抱か...

私も同感です、自然死が本来のあり方だと思います。残された人の中には罪悪感を抱く方も多いと思いますが、本人の意思を尊重したということで罪悪感は抱かないでほしいと思います。

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