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高齢者 「学び」で新たな人間関係…会社以外でつながり少ない男性に求められるもの

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「学び」で新たな人間関係

 高齢になると、人付き合いが少なくなって、社会とのつながりが薄くなってしまうと感じる人も多いのではないでしょうか。学びを通じて、地域の居場所づくりや社会参加につなげる取り組みを取材しました。(田野口遼)

県が各種専門コース開設

 「現役時代の立場は忘れて、平等な会話を心がけてほしい」

 5月11日に開かれた長野県シニア大学専門コースの初回講義のテーマは、平等な会話を意味する「等話」だった。現役時代の肩書を持ち出すと、新たに人間関係を築きにくくなるという。約30人の受講者は熱心に講師の話に聞き入っていた。

 専門コースは長野県が2017年に開始。自分らしい生き方を模索する「ライフデザイン」、地域での居場所づくりを実践する「コミュニティデザイン」、地域に根ざしたビジネスを学ぶ「ビジネスデザイン」の3コースがある。年12回の講座で費用は2万6000円。今年の受講生の平均年齢は68歳で、最年長は79歳だ。シニア大学には、教養や趣味、地域づくりを学ぶ2年制の一般コースもある。

 男性が多いのが専門コースの特徴だ。県長寿社会開発センターによると、一般コースの受講者の8割は女性。しかし、「地域課題を解決するリーダーやプロデューサー的な人材の養成」を専門コースの目標に掲げたところ、男性の受講者数が女性を上回ったという。同センターの担当者は「リーダーやプロデューサーという言葉が男性を引きつけているのでは」と分析する。

「学び」で新たな人間関係

講義に耳を傾ける長野県シニア大学の受講生ら(長野市で)

「学び」で新たな人間関係

シニア大学の仲間とボランティア活動をする岩井さん(前列左)ら=長野県長寿社会開発センター提供

 コミュニティデザインコースで学ぶ同県伊那市の太田伸さん(72)は、「地域の防災組織づくりを学びたいと考えていて、それを生きがいにしていければ」と意気込みを語った。

 シニア大学は新たな交友のきっかけにもなっている。

 同県木島平村の岩井真里子さん(71)は、シニア大学で出会った仲間とボランティアで、小学校の校庭の草むしりや子ども向けお菓子作り教室をしている。仲間どうしで登山をすることもあるといい、「シニア大学での出会いは宝物」と話した。

定年後 大学で生物学

 大学で学び直す人もいる。

 金川誠さん(63)は、広島大生物生産学部で生物学を学ぶ3年生。40歳も年下の若い学生と授業を受けている。

「学び」で新たな人間関係

生物学の講義を受ける金川さん(広島大で)

 広島県出身の金川さんは、大学院修了後に食品会社に就職。定年が近づくにつれ、「会社以外の人とのつながりが少ない」と不安を覚えるようになったという。そこで、「定年後は大好きな自然科学をもう一度勉強し、社会とのつながりを保ちたい」と、50~60歳以上を対象に小論文や面接で合否を判定する広島大の総合型選抜(フェニックス型)を受験し、合格した。

 若い学生にパソコンやスマホの使い方を尋ねる一方で、自分の経験を伝える機会もあるという。「学問だけじゃなく、若い世代との交流も楽しい。卒業後はもう一度、大学院へ挑戦したい気持ちもある」と、学問への探究心は尽きない様子だ。

地域活動に上下関係なし

 高齢者の学びと社会参加について、日本女子大の荻野亮吾准教授(生涯学習論)に聞いた。

「学び」で新たな人間関係

荻野亮吾准教授

 高齢者の学びには様々なニーズがあります。趣味や教養を学ぶ市民講座だけでなく、大学の公開講座も仲間づくりの場として活用できます。

 生涯学習は、就労やボランティア活動よりも参加へのハードルは低い一方で、他の活動の入り口になるという側面もあります。また、生涯学習はそれまでの生き方を見直し、新たなステージを生きるための貴重な機会にもなります。社会に関わっているという実感が持てる活動に取り組むことができれば、身体の健康だけでなく精神面での健康の維持にもつながります。

 特に男性に言えることですが、地域で活動する際には、現役時代の仕事との切り替えが大事になります。基本的に地域の仲間との活動に上下関係はありません。それぞれの役割を見いだしていくのが肝要です。

 超高齢社会を迎えた現在では、大学側も学習機会の提供だけでなく、町内会と合同でプロジェクトを実施するなど、社会参加の場を積極的につくることが求められていると思います。

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