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赤平大「発達障害と高IQのリアルな子育て」

医療・健康・介護のコラム

中1になった息子が保育園で発達障害だと分かったワケ…入試2か月前に「麻布中に行ってみたい」とつぶやいた

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12月の中学入試偏差値は50台

 「麻布中学に、行けるなら行ってみたいな……」

 めったに意思表示をしない発達障害の息子が、そうつぶやいたのは2022年12月。入学試験日は2月1日と目前でした。息子は発達障害の特性の影響で1日に集中して学習できるのは1時間程度。ただ、特性の一つ「習慣化へのこだわり」を転用して「毎朝1時間の学習」と「病院や空港などでの待ち時間を活用したスキマ学習」を習慣化し、小学校1年から継続していました。

 先取り学習や数学検定の学習をコツコツと積み重ねて6年生になりましたが、いわゆる「中学受験」は視野になく、息子の本命は横浜の発達障害に手厚い私立中で、進学塾にも通っていません。12月の中学入試偏差値は50台で、超難関私立の麻布中(東京都港区)に合格できるレベルではありませんでした。

 その2か月後、息子は麻布中学に合格しました。

 このコラムは「合格体験記」や「奇跡話」ではありません。お伝えしたいのは「発達障害に厳しい社会の現実」と、一方で「社会が発達障害を理解すると、本人は信じられないポテンシャルを発揮する」ことです。

 アナウンサーの仕事をしながら、息子の将来のために発達障害を学び、食事・登下校・習い事など息子を密着サポートして10年以上。気がつくと、起業して副業で発達障害支援者向け動画メディア「 インクルボックス 」を作っていました。発達障害を知らなかった私が少しずつ知識を得て、子育てと支援法を変えていく過程、その失敗談を書くことで、読者の皆さんのお役に立てればと思っています。

「一度、病院に相談に行った方がいい」と外国人保育士

「お子さんは発達障害かもしれない」と保育士が親に言えない3つの理由とは?

 息子が発達障害であると知ったのは、保育園のときでした。ある日のお迎えで外国人保育士さんから「息子さん、言葉の理解が大人と変わらないです。英語も伝わっています。いっぱい勉強しているんですね」と言われました。息子は特別な勉強をしていなかったので不思議に思い、具体的に話をうかがうと、外国人保育士さんは「一度、病院に相談に行った方がいいと思います。あと、早く海外に行った方が息子さんの将来のためになると思います」と伝えてくださいました。この頃の私は発達障害の知識を全く持っておらず、何のことかさっぱり見当もつきませんでした。

 発達障害の特徴は、一般的に集団生活の始まる保育園や幼稚園の頃から分かりやすくなると言われています。つまり保護者より保育士さんや幼稚園の先生の方が先に気づくケースもあるわけです。

保育士が発達障害の疑いを伝えることで親とトラブルも

 ところが日本の保育の現場で保育士さんは「あなたの子供は発達障害かもしれない。検査に行ってみては?」と伝えにくい実態があります。理由は大きく三つあります。

①発達障害は医師が総合的に診断する。

②保育士に発達障害の知見が少なく、適切に伝えられない。

③保護者に伝えることで反感を買ってしまうことがある。

 ネット上で「発達障害簡易テスト」などを見かけることが多いかもしれませんが、理由①にあるように、発達障害は医師が「行動観察や成育歴、検査結果などを総合的に見て診断」します。

 理由②は、現場の保育士さんたちが苦悩している点です。学校の先生と同様で、保育士さんも「先生の過重労働問題」があるため、発達障害の勉強をしたくても、研修を受けたくても、時間がありません。保育園としても研修への参加を義務化すると労働基準法に抵触する恐れがあり、保育士に無理強いはできません。

 2005年の発達障害者支援法では「学校や保育園の先生などに発達障害の知識をつけさせること」を国や自治体の責務としていますが、現在までに十分な実装ができていない理由として、上記の「過重労働問題」が横たわっています。これに関して私が文部科学省に質問したところ、「文科省・厚生労働省として赤平さんと同様の見解」とのことでした。

「お子さんは発達障害かもしれない」と保育士が親に言えない3つの理由とは?

発達障害支援について文科省に意見書を提出。左から3人目が筆者(2021年6月)

 理由③は事情が複雑です。保育者や教育者が保護者に対し「お子さん、一度病院で検査してみては?」と伝えると、保護者は発達障害を疑われていることにショックを受け、気分を害することもあります。中には怒る保護者もおり、保育園・学校と保護者とのトラブルに発展するケースもあります。

 私が取材した地方都市の元保育園長は「発達障害かも、と思っても保護者には言えないので役所に相談したが、『それは保育園の仕事』と言われて困ってしまった」という回答もありました。また、関東の病院勤務の精神保健福祉士からは「園や学校は直接保護者には言いにくいので、巡回指導で発達障害とは言わずにサポートしたり、保護者が自然と気づけるように工夫したりしている」との回答もありました。

 ある論文では「発達障害児の問題行動そのものは保育士の心理的負担になりにくく、むしろ未診断発達障害児の保護者に子供の状態を伝えることによる心理的負担が大きい」という研究結果もあります。

(参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/reccej/54/1/54_67/_pdf/-char/ja

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akahira-masaru_prof

赤平 大(あかひら・まさる)

 元テレビ東京アナウンサー。現在はフリーアナとしてWOWOW「エキサイトマッチ」「ラグビーシックスネーションズ」、ジェイ・スポーツ「フィギュアスケート」など実況、ナレーターとしてNHK BS「ザ少年倶楽部プレミアム」など担当。

 2015年から千代田区立麹町中学校でアドバイザーとして学校改革をサポート。2022年から横浜創英中学・高等学校でサイエンスコース講師を担当。発達障害学習支援シニアサポーター、発達障害コミュニケーション指導者などの資格を持つ。早稲田大学ビジネススクール(MBA)2017年卒優秀修了生。

 発達障害と高IQの息子の子育てをきっかけに発達障害動画メディア「インクルボックス」運営。

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