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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

進学校に入学した高1女子 授業中に過呼吸を起こし不登校に…診察室で泣きながら語った言葉

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お母さんをこれ以上困らせることはできない…我慢し続けた高1女子が過呼吸と不登校になったわけ

 お母さんの前ではとてもよい子を演じているお子さんがいます。お母さんからの評価を気にしているからでしょうか。いいえ、それだけではないのです。そこには、安心できる居場所を求めて必死になっている姿を見ることができます。

 桃花さん(仮名)は、両親、3歳違いの弟と同居しています。幼稚園時代からおとなしく、手のかからない子でした。幼稚園の年下の園児や弟の世話を嫌がらずによくしていました。

 小、中学校時代はまじめな子で、勉強を熱心にしていました。放課後は同級生の家には遊びに行かず、自宅で勉強したり、お絵描きをしたりして過ごしました。お母さんに反抗、反発したりすることもなく、家の手伝いをお母さんに言われなくても進んでしていました。

 高校は市内の進学校に入学しました。高校1年生の5月の連休明けから、授業中に突然、過呼吸を起こして倒れ、保健室に運ばれるようになりました。6月になってからは、学校を休むようにもなりました。そのため、保健室の先生の勧めで、9月にお母さんと一緒に思春期外来を受診しました。

 初診時の桃花さんは診察室に入った直後から涙を流していました。主治医が話しかけても、うつむいたままでほとんど話をしてくれません。お母さんによると、これまで本当に手のかからない良い子で、親を困らせるようなことはなかったとのこと。どうしてこのような状態になったのか理由が分からない、と述べていました。過呼吸と不登校ということなので、2週間おきにお母さんと一緒に思春期外来に通院することになりました。

「私が我慢すればいいだけ」一人で悩みを抱え込んでいた

 通院を始めて3か月がたち、桃花さんは診察室でようやく話をしてくれるようになりました。

 「私のお母さんは、家の中でいつもお父さんに気を使っています。お父さんはお母さんに対しすぐにどなる人なので、怒らせないようにと、お母さんはいつもピリピリしています。だから、お母さんには友達関係や勉強の悩みごとを一切相談できません。お母さんをこれ以上困らせたり、悩ませたりすることはできないから。私が我慢すればいいだけです」

 そう話しながら泣き出しました。

 通院して6か月後、今の高校への登校は難しいと考えて、桃花さんは通信制高校に転学しました。通信制高校へは休むことなく登校でき、過呼吸を起こすようなこともありませんでした。

 この頃の桃花さんは診察室で、「私にとって、お母さんの笑顔が居場所だったのです。お母さんが笑顔で私のそばにいてくれるとホッとするのです。だからお母さんを困らせるようなことは言いたくなかった。良い子を演じていたのかもしれません」と明かしてくれました。

 通院を繰り返すうち、桃花さんが一人で悩みを抱え込んでいたことをお母さんは少しずつ理解するようになりました。「弟に手がかかり、しっかり者の桃花を放っておいたかもしれません。それに怒りっぽい夫に気を使うことが多くて、そのせいで桃花をみてあげられなかったと思います。今は桃花との2人だけの時間を作るように努めています。桃花は2人きりになるといろいろな話をしてくれるので驚いています。そんなささいなことで悩んでいたのかというような話もしてくれます」と述べています。

 その後の桃花さんは高校を無事卒業し、今はファストフード店でアルバイトをしています。ボーイフレンドもできたようです。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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