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いつか赤ちゃんに会いたいあなたへ

医療・健康・介護のコラム

妊娠39週で分かった死産 不妊治療後にやっと出産したが「産後うつ」に…妊娠はゴールではない

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流産、不妊治療を経てやっと授かったからこそ「育児が大変」とは言い出せない

 不妊治療をしていると、つい「妊娠」がゴールだと思ってしまいがちです。毎月、生理が来るたびに落ち込み、次こそは妊娠できるようにと、自分なりに体調を整えたり、運動をしたり、妊娠に良いと言われるものを食べたりするなど、様々な努力を続ける人は少なくありません。しかし、せっかく妊娠しても、本当に無念なことに、流産したり、死産したりして、元気な赤ちゃんを抱くことができないケースが一定数あるのです。そして、無事出産した後に困難が待ち受けていることも。

 今回は、そんな経験をされたYさんのお話です。

避妊をやめて半年で妊娠

 公務員のYさんが結婚したのは32歳の時。夫は同じ職場の三つ年上の先輩です。結婚してしばらくは2人とも仕事が忙しく、毎日残業続きで、子どものことを考えることも話すゆとりもなかったそうです。

 3年がたつと、両親からの催促もあり、子どもを持つことを真剣に考えるようになりました。「できれば子どもは2人以上欲しいよね」と、まずは避妊をするのをやめました。Yさんは生理も28日周期できっちりときていたので避妊をしなければすぐにでも妊娠できるだろうと思っていました。

 予想通り、半年もたたずにめでたく妊娠反応がでました。つわりもさほどひどくなく、順調に妊婦生活を送り、ついに産休に入りました。産着やベビーベッドなど赤ちゃんを迎える準備もすっかり整え、あとは出産を待つだけとなった39週目の臨月。その日は突然やってきました。

おなかの中で亡くなっていた赤ちゃん

 予定日よりも早く陣痛が来て、病院に運ばれたYさんが告げられたのは、信じがたい一言でした。「おなかの赤ちゃんが亡くなっています」。時を待たずして死産をしなくてはなりませんでした。通常のお産と同様の痛みがありながらも、赤ちゃんの産声を聞くことができない悲しすぎるお産です。Yさんは混乱のまま出産に臨み、ただただ苦しみと悲しみで涙が止まらなかったといいます。

 その後、毎日家で泣き暮れていたYさん。つらい出来事でしたが、Yさんも夫も、子どもを持ちたいと願う気持ちはなくならず、ゆっくりと妊活を再開することにしました。この時、Yさんは37歳になっていました。

妊活しても授からない

 ところが、なかなか妊娠しませんでした。年齢も気になっていたし、何よりも焦りがあったため、不妊治療を始めることにしたそうです。すぐに人工授精をしましたが、それでも妊娠できません。「『こうしているうちにも歳をとってしまうのに』と気持ちが焦るばかりで、毎月生理が来ると、ひどく落ち込んでいました」

 8回目の人工授精でも妊娠ができなかったのをきっかけに医師に勧められ、今度は体外受精に進むことになりました。「これでやっと妊娠できるはず! と確信しました」とYさん。しかし、妊娠せず、「以前の死産のことも思い出し、もう私は一生赤ちゃんを抱っこできないんじゃないかと感じていた」と涙ながらに語ってくれました。

 その後1年半にわたり、すべてのエネルギーを治療に向けて、体外受精を受け続けました。そして、ようやく待望の妊娠! 順調な妊婦生活を送り、今度こそ無事に元気な赤ちゃんを出産することができました! Yさん夫妻は涙を流して大いに喜び、周囲の皆とともに赤ちゃんの誕生を祝いました。

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松本 亜樹子(まつもと・あきこ)
NPO法人Fineファウンダー・理事/国際コーチング連盟マスター認定コーチ

松本亜樹子(まつもと あきこ)

 長崎市生まれ。不妊経験をきっかけとしてNPO法人Fine(~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)を立ち上げ、不妊の環境向上等の自助活動を行なっている。自身は法人の事業に従事しながら、人材育成トレーナー(米国Gallup社認定ストレングス・コーチ、アンガーマネジメントコンサルタント等)、研修講師として活動している。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)など。
Official site:http://coacham.biz/

野曽原 誉枝(のそはら・やすえ)
NPO法人Fine理事長

 福島県郡山市出身。NECに管理職として勤務しながら6年の不妊治療を経て男児を出産。2013年からNPO法人Fineに参画。14年9月に同法人理事、22年9月に理事長に就任。自らの不妊治療と仕事の両立の実体験をもとに、企業の従業員向け講演や、自治体向けの啓発活動、プレコンセプションケア推進に力を入れている。自身は、法人の事業に従事しながら、産後ドゥーラとして産後ケア活動をしている。

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