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[つながる]第3部 失敗してもいい居酒屋<中>外での仕事がうまくいかず店に戻った28歳女性 再会した常連客がかけた言葉は

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[つながる]第3部 失敗してもいい居酒屋<中>帰ってきていいんだ

 社会に踏み出そうとする若者を地域で支える居酒屋が、山形県米沢市にあります。店で働く人たちにとって、常連客とかわす何気ない会話は、心のよりどころになっています。(野口博文)

自立への努力 常連客に伝わる

 「また戻って来ちゃいました」。粟野百花さん(28)は、自分に気がついた常連客に、笑顔を見せた。

 自立を目指す若者を、地域の人が見守る山形県米沢市の会員制居酒屋「結」は、社会でつまずいた時に、いつでも帰れる場所だ。

 昨年10月から、粟野さんの就労に向けたトレーニングは3回目に入っている。

 小学校でいじめに遭い、中学でも不登校の時期があった。高校生の頃、将来への不安が大きくなり、夜中に過呼吸の発作に襲われるようになった。レストランや靴店などでアルバイトをしたが、人間関係のストレスで体調を崩して辞める、という流れが続いていた。

訓練は3回目

[つながる]第3部 失敗してもいい居酒屋<中>帰ってきていいんだ

常連客の相田隆行さん(右)らに日本酒をつぎに来た粟野百花さん

 2016年2月に、初めてこの店に来た。過呼吸の発作があった翌日は、喉が痛く、声が出ないこともある。そんな時は、身ぶりで、お皿を運んでほしいことなどをなんとか伝えた。「仲間もお客さんも、そんな自分を受け入れてくれた」

 明るい接客で店の人気者になり、22歳の時、トレーニングの立場からアルバイト雇用に変わって、収入が増えた。

 「経験を糧に、外で働いてみよう」と、1年後に「結」を卒業し、レストランでアルバイトを始めた。

 でも、2か月しか続かなかった。年配の女性客に、接客中の方言を「言葉が汚い。若いんだから、しっかりしなさい」と注意され、ショックだった。その夜、また過呼吸の発作に襲われた。人に会うのが怖くなった。

 「来られる時に、また店においで」。「結」の代表の白石 祥和よしかず さん(41)が声をかけてくれた。花束やプレゼント、寄せ書きを受け取って常連客や仲間に盛大に送り出してもらったのに戻って来たのが気まずくて、しばらくは調理場で料理や皿洗いをしていた。

 ある日、接客のスタッフが忙しくなり、仕方なく調理場を出て手伝うと、常連客が「久しぶりだね」と明るい声で迎えてくれた。「ここにいていいんだ」。1か月ほどで笑顔を取り戻した。

 2年前には、地元の建築会社に正社員として採用された。自分で見つけた仕事だった。でも、住宅の建築現場での仕事は体力的にも厳しく、1年ほどで、再び「結」に戻ることになった。

 そんな経緯をたどって今がある。少し申し訳なさそうな粟野さんに、常連客の市役所職員、相田隆行さん(48)が「人生、少しくらい波があっていいと思う。俺は、また会えてうれしい」と声をかけた。「照れるなあ」と笑った粟野さんは、「帰って来ていい場所があるって、いいな」と思った。

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