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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

あなたは「敵」か「味方」か コロナ問題で浮き彫りになった「立場合戦」

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 学会のシンポジウムでよく、「〇〇の立場から」というサブタイトルがつけられます。あれが苦手です。例えば、「新型コロナウイルスを再考する。感染症医の立場から」みたいな感じ。嫌ですねー。

反対の立場に「わざと」立つ

あなたは「敵」か「味方」か コロナ問題で浮き彫りになった「立場合戦」

 20年前に書いた本のタイトルは「悪魔の味方」( https://amzn.asia/d/2hQ3s7P )でした(現在、絶賛絶版中です)。これは英語表現の「devil’s advocate」をそのまま日本語に訳したものです。

 ある議論をするときに、わざと反対意見を言う側に立つことを英語表現で「play the devil’s advocate」というのです。一方的に「私はこう思うぜ」と意見を言うだけだと、論拠に穴があったり、理論が飛んでいたり、根拠のデータが的外れだったりすることはよくあります。だから、反対の立場に「わざと」立ってみて、論拠の穴を探したり、理論が飛んでいるところを指摘したり、根拠のデータが的外れだったり間違っていたりしていないかほじくり返したりするのです。

 これを「わざと」やることが大事でして、こうすることでその意見の説得力は増します。理論武装がちゃんとされるからです。論拠の穴は埋められ、理論の飛んでいるところはちゃんと橋をかけて適切な理路を作り、的外れだったデータは適切なデータに差し替えて、より説得力のある意見に仕立て直します。こういう習慣があるからアメリカ人は議論が上手なんですね。

 この「悪魔の味方」は複数で議論するときの「技術」として用いることもできますし、自分ひとりでやることもできます。自分の中で「もうひとりの別の視点から同じ問題を見る自分」を設定し、反対側から検討するのです。反対側から見ると、これまで見えていなかった景色が見えてきます。当然と思っていたことが案外、当然ではなく、正しいと思っていたことの正しさがゆらぎ、「許せないぜ」と思っていたことが割と許せるのではないかと思えてきます。

論文を信用足るものにする手法

 こうして同じ問題を多角的、多面的に眺めてみることで、それまでの薄っぺらかった意見がより分厚くて強固で、「ロバスト」な意見に成長していきます。ロバスト(robust)というのは「頑丈な」とか「強固な」という意味の英単語ですが、見解や研究がしっかりしていることをロバストというのです。

 こういう知的作業は論文を書くときにも必ず行います。論文のお尻には必ずリミテーション(Limitation、制限)というものを書きます。

 「自分が書いた論文がオールマイティーな無敵な文章なのではなく、あちらこちらに欠点はあるのです。そのことは分かっていますよ。でも、それを踏まえた上で、やはり、この論文は世に出す価値があるのです」

 そう説明するのです。健全なリミテーションの自覚と公表があるからこそ、その論文は信用できるのです。

 昔の日本の医学論文(特に臨床系の論文)には、リミテーションの記載がない「無敵を誇示する」論文が多かったのですが、そういう論文はリミテーションの自覚がないがゆえに「質が低い」のです。そういうことなのです(ちょっと分かりづらいかもしれませんが……)。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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