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宮本礼子・顕二「高齢者の終末期医療はよくなったのか」

医療・健康・介護のコラム

意識不明になった94歳男性 医師は家族の希望に反して経管栄養…終末期医療は誰のためのもの?  

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「この状態はおかしい」悩む介護士

療養病棟の終末期医療はむしろ悪化 診療報酬制度の見直し必要

 2021年12月、療養病棟に勤める介護士から手紙をもらいました。「終末期医療の現状を目の当たりにし、大きな衝撃を受け、『生きる』とはどういうことかと考えるようになりました。この状態はおかしいと思いながら、 悶々(もんもん) とする日々の中で(中略)、すべての人が人間らしく生きられる世の中になるようお祈りしています」と書かれていました。

無意味な嚥下検査に苦しむ患者

 また、別の病院の療養病棟に勤める看護師もこう言います。「診療報酬を高くするために、必要がなくても (たん) を吸引し、患者に苦しい思いをさせる。さらに、食べ物が全く飲み込めない人にも、内視鏡や 嚥下(えんげ) 造影で嚥下検査を毎月行う。検査食を口に入れるので、むせて吸引が必要になり、その晩は熱が出て抗生剤を点滴する。患者があまりにもかわいそう!」

 2人の話から、療養病棟の終末期医療はよくなっているどころか、むしろ悪くなっていることがうかがえます。

胃ろうが減り、報酬が高い中心静脈栄養が増えた

 全国の療養病床数は減少傾向ですが、鼻チューブや胃ろうからの栄養投与は減り、診療報酬が高い中心静脈栄養(高濃度の栄養を太い血管に入れる点滴)による栄養補給が増えています。

 本来、中心静脈栄養は手術後などに短期間行うもので、長期間行えば感染症のリスクが高まります。さらに医療費も増大するため、厚生労働省は中心静脈栄養を早く中止することを勧めています。そのため、内視鏡や嚥下造影で嚥下能力を検査し、さらに嚥下の改善に取り組まなければ、中心静脈栄養の診療報酬を下げることにしました。

 また、鼻チューブや胃ろうからの栄養投与、中心静脈栄養の処置を受けている患者において、摂食嚥下機能回復体制加算を取るためには嚥下の検査が必要になりました。その結果、先の看護師が言ったように、嚥下できないことが明らかな患者にも嚥下の検査が行われるようになりました。高齢者にとっては拷問です。死が近い高齢者の嚥下能力は回復するはずがありません。嚥下の検査も訓練も不要です。

 一方、家族の中には、鼻チューブや胃ろうではなく、中心静脈栄養であることを誇らしげに言う人がいます。鼻チューブや胃ろうは、悪者扱いされているからです。しかし、中心静脈栄養と鼻チューブや胃ろうかは、栄養を送る方法が違うというだけで、寿命が尽きた高齢者を延命するという点では同じです。

 また、入院は施設入所よりも費用が安いこと、高齢者の年金を当てにしている家族がいることも、療養病棟で延命医療が続く理由になっています。

 この10年で、療養病棟の終末期医療はさらに悪くなっています。患者を延命しなければベッドが空き、経営が苦しくなります。また、不要な医療をしなければ診療報酬が下がり、やはり経営が苦しくなります。診療報酬制度を変えない限り、療養病棟では延命治療が続き、高齢者は不要な医療で苦しみます。

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宮本礼子・顕二「高齢者の終末期医療はよくなったのか」
宮本礼子(みやもと・れいこ)

宮本礼子(みやもと・れいこ)
江別すずらん病院・認知症疾患医療センター長。日本尊厳死協会北海道支部長。1979年、旭川医科大学卒。内科医。専門は認知症医療と高齢者終末期医療。2012年に「高齢者の終末期医療を考える会」を設立し、代表となる。著書「 欧米に寝たきり老人はいない(夫、顕二と共著)」(中央公論新社)、「 認知症を堂々と生きる(共著)」(同)。

宮本顕二(みやもと・けんじ)

宮本顕二(みやもと・けんじ)
北海道大学名誉教授、北海道中央労災病院名誉院長。
1976年、北海道大学医学部卒。内科医。専門は呼吸器内科と高齢者終末期医療。


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