文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

自閉スペクトラム症の女子高生 「Snow Man」のメンバーに加わる物語を空想し、毎回診察室で話すわけとは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
「Snow Man」に加わる物語を空想する女子高生…空想がフラッシュバックから心を守ってくれた

 自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちは、空想が好きな子が多いといわれています。自分でお話を作り、一人で楽しむだけではなく、周りの家族にその話を語ることもあります。今回は、そのような空想の世界に浸っている女子高校生を紹介します。

 優希さん(仮名)は、両親と同居しています。優希さんには言葉の遅れがみられ、3歳になってようやく意味のある単語が出るようになりました。幼稚園では、落ち着きがなく、他の園児と一緒に遊ぶことができませんでした。お遊戯会や運動会では、先生が必ずそばについていたそうです。アンパンマンやドラえもんのアニメが大好きで、自宅では録画した番組を繰り返し見ていました。そして、アンパンマンやドラえもんが登場するお話を自分で作り、お母さんに話していました。

 また、買い物に行くとアニメのグッズを欲しがって床に寝転び、大声で泣き叫ぶことがありました。好きなことに熱中すると、食事や入浴も嫌がりました。そのため、両親からは「わがままな子」ということで、叱られてばかりいて、お父さんにはたたかれることもありました。手がかかる子だったので、年長時に小児科を受診したところ、自閉スペクトラム症といわれ、小学校は特別支援学級の活用を勧められました。

 そして、小学校に入学すると特別支援学級に在籍。落ち着きがなく、やり取りが一方的になりやすい傾向が続きました。通常学級との交流はありましたが、からかわれたり、無視されたり、物を隠されたりといういじめに遭い、そのたびに教室で泣いていました。

 中学校も特別支援学級に在籍しましたが、同級生にアニメの話を一方的にするため、教室内では「変わった子」ということで、相手にされなくなり、中学校でもいじめの対象になりました。休み時間は一人でお絵描きをして過ごしました。

 高校はお父さんとお母さんの強い希望で、普通高校に進学しました。高校では教科ごとに先生が替わり、教室移動も多く、時間割も毎週変更になりました。その都度、優希さんは混乱してパニックになっていました。友達を作ることもなかなかできませんでした。

 高校1年の5月の連休後から、優希さんには確認行為が目立つようになりました。放課後は必ず職員室に行き、担任の先生に翌日の時間割を一つ一つ確認することを繰り返すようになりました。自宅でも翌日に必要な教科書やノートを確認するのに長時間かかるようになり、お母さんがその確認に付き合っていました。確認に要する時間が長くなったので、1年の夏休み明けに優希さんはお母さんと一緒に思春期外来を受診しました。

パニックを起こすことがなくなり、今は高校生活を楽しんでいる

 初診時の優希さんは、急な変更や変化が苦手で,そのために確認していることを話してくれました。友達を作りたいけれども、話題が合う子がいないということも述べていました。自閉スペクトラム症と強迫性障害ということで、2週間に1度の割合で通院することになりました。

 通院を開始してから、優希さんは大好きなアイドルグループ「Snow Man」の写真集を持参して、メンバーの一人一人について詳しく説明してくれました。さらに、診察室ではスマートフォンで「Snow Man」の曲をかけ、それに合わせてダンスを披露してくれるようにもなりました。このような診察が毎回続きました。

 6か月がたち、優希さんは診察室で次のように話してくれました。

 「私が空想するのは、昔、お父さんに怒られたことや学校であったいじめを思い出したくないからなのです。自分が『Snow Man』のメンバーに加わるというお話を空想すると、嫌なことを思い出すことがいったん止まります。だから、空想することが癖になってしまいました。でもね、空想の話をするのは、診察室だけですよ。だって教室でこんな話をしたら、みんなからおかしいと思われるでしょう。私だって多少は空気を読めるのだから」

 高校2年になって、同級生たちは優希さんの特性を少しずつ理解するようになり、教室移動では付き添ってくれたり、時間割の確認も一緒に行ってくれたりするようになりました。また、休み時間には優希さんの好きなアイドルの話に付き合ってくれるようにもなりました。その後、優希さんは学校でパニックを起こすことがなくなり、今は高校生活を楽しんでいます。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

takei-akira_prof

武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

武井明「思春期外来の窓から」の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事