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コロナ禍 病院や高齢者施設で面会制限厳しく…厚労省が再開促す

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 コロナ禍では、病院や高齢者施設で外部との面会が厳しく制限されてきました。終末期や 看取みとり期を迎えた患者や入所者が、家族らと会えないまま、かけがえのない時間が過ぎ去る事態に陥り、深い傷痕を残しました。厚生労働省は今年1月、面会の再開を促すパンフレットや動画を公開しました。(鈴木敦秋)

明確な指針なし

 本紙朝刊くらし家庭面の連載「医療ルネサンス」で、コロナ禍での面会制限の実情をリポートしてきました。「同居する者しか看取りに立ち会えず、時間も15分だけ」「看取り期の面会を許可していた主治医が休みで、突然、拒否された」など、120件の体験や意見が寄せられました。認知機能が低下した、といった訴えも多くありました。

 こうした家族側の声に対し、病院や施設は、「感染が広がる懸念がある」「患者ごとに対応を変えれば不公平と批判を受ける」などを理由に挙げます。

 終末期医療のあり方や死生観を研究している東北大学准教授の田代志門さんは、面会制限について、〈1〉患者の権利が過度に制限されている〈2〉面会が医療やケアの本質に関わるという視点が欠如している――などの問題点を指摘します。

 国の新型コロナウイルス対策の基本的対処方針では、2020年4月、「面会は緊急の場合を除き一時中止すべき」としました。これが1年維持されました。

 首都圏1都3県の緊急事態宣言の解除(2回目)を控えて出された21年3月の方針では、面会制限の原則を維持しつつも、面会について「患者、家族のQOL(生活の質)を考慮する」との文言が加わりました。同年11月には、「対面での面会を含めた対応の検討」を病院や施設に求めました。

 22年11月の方針で、「面会は患者や利用者、家族にとって重要」とより表現が強まりました。同年6月には、厚生労働省の助言機関も、面会を段階的に認めるよう提言しています。

 しかし、面会制限に関する明確な指針が国から出されなかったことから、面会できるよう工夫を凝らす病院・施設と、原則禁止の方針を貫く病院・施設に分かれ、格差が生まれました。

患者の権利

 厚労省は今年1月、高齢者施設での面会の再開・推進を促す職員向けのパンフレットや動画を公開しました。面会を「利用者の基本的権利」と位置づけ、認知機能の改善や意欲の向上が期待できるため、換気や手洗い・マスクなどの感染対策をとって面会を実施するよう促しています。

 米国での調査によると、新型コロナウイルスの感染拡大初期の20年3~5月に、全米65の主要病院のうち49病院が「面会禁止」を打ち出しました。ただし、63病院は小児科、出産、終末期などを面会制限の例外として公表しました。面会が患者の権利として連邦レベルで認められています。

 一方、日本には、患者の権利を保護する法律がありません。田代さんは、〈1〉面会の例外規定をつくる〈2〉面会の方針を定期的に見直す〈3〉方針について、本人や家族の声を反映させる――の3点を提案しています。

 田代さんは「平時に準備しておかないと、次の有事に同じことが繰り返されてしまう」と警鐘を鳴らしています。

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