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昼スナック「誰も頑張らなくて大丈夫」…福岡・中洲のママは社会福祉士

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 九州随一の夜の街、福岡・中洲に昼だけ開く「昼スナック(昼スナ)」がある。飲食店がコロナ禍に沈んだ一昨年、社会福祉士でママのフィッシュ明子さんが始めた「ソーシャルワーク」の一環だ。社長も職探し中の人も、健常者も障害者も、スナックは「誰も頑張らなくて大丈夫な場所」。自分に戻れる時間を求めて、客たちが昼スナの扉を開ける。(遠藤信葉)

月に3日

昼スナック「誰も頑張らなくて大丈夫」…福岡・中洲のママは社会福祉士

客たちと談笑するフィッシュさん(右)。カウンターに山下さんの分身ロボットが置かれた(3月19日、福岡市博多区で)

 バーやクラブの看板がひしめく中洲の一角。人の姿もまばらな日曜の午後2時過ぎ、フィッシュさんが「スナックひきだし中洲店」の出窓を開けると、春の陽光が差し込んだ。

 店のオープンは2021年1月。夜営業のスナックの店舗を、日中に間借りする形で始めた。今の場所は3軒目だ。

 九州大准教授の研究補助にキャリアコンサルタントなど、たくさんの顔をもつフィッシュさんが店を開けるのは月に3日ほど。この日、SNSで告知した開店時間になると、60歳代の夫婦が中をのぞき込んだ。「初めて来るから迷っちゃって」と話す女性に、「よくいらっしゃいました」と笑いかけた。

「少数者の役に」

 福岡市の新聞社などで働いていたフィッシュさんは1999年、知人に誘われて渡英。3年後、米国人の夫の転勤で中国に移った。ヨーロッパにアジアと続く海外生活で、肌の色や言語の違いから露骨な差別を受けた。「マイノリティーに向けられる冷たい視線」を初めて感じた。その経験から「少数者の役にたちたい」と思い立った。出産を機に2004年に帰国すると、通信制大学で社会福祉士の資格を取り、障害者施設などで働いた。

 仕事はハードだった。「利用者の尊厳を守るため」と、献身的に介護するうちに、自分も同僚も心身をすり減らしていた。

コロナ禍発案

 スナックを思いついたのは、コロナ禍まっただ中の頃。仕事を失い、役割を失い、自分のいる意味を見失った人がたくさんいると知った。

 「人は『人の役にたたなければいけない』と思い詰めてしまう」。福祉の仕事に疲れ果てた頃の自分と重なった。そんな人たちを「頑張らなくても存在を認められる場所」=スナックに迎えようと考えた。

 昼の店にしたのは、普段は歓楽街に足を向けない人に安心して来てもらうため。この店でもうけるつもりはない。日頃、肩書や人目を気にする人が自分を取り戻せるように、SNSで「役にたたなくてもいい場所」と打ち出した。

リモート接客

 評判を聞いた客が、遠く東京からも訪れる。やり手の社長に大学教授と、社会的地位のある客も、昼から酌み交わすとすっかり打ち解ける。

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山下智子さん(本人提供)

 思わぬ出会いもあった。脳性まひで体が不自由な山下智子さん(43)(東京都多摩市)だ。

 介助者の助けを借りて一人で暮らす。障害は重いが、ボッチャの元日本代表で、内蔵カメラとスピーカーで会話できる分身ロボットで講演するアクティブな女性だ。

 2月、知人を通じてフィッシュさんと知り合うと、社交的な2人は意気投合。「ノリで」ママになると決めた。

 デビューの3月19日、カウンターの上で、真っ赤なドレス姿のロボットが客を迎えた。「ともっちです」「きょう限定のカクテルはいかが?」。ロボットから伝わる明るいママぶりに、福岡県筑紫野市の仲道正恭さん(64)は「リモートという気がしない。気持ちが通じた」と笑う。

 この日は未成年の客もリモートで“来店”。18歳の誕生日を9日後に控える福岡市の中井けんとさんが、自前のロボットを持ち込んだ。接客に「初めてのスナックが新鮮で、居心地が良い。次はリアルで訪れたい」と話した。

 フィッシュさんは「昼スナは私も安心できる場所」と感じる。くつろぐ客の話にカウンターで耳を傾ける時間が喜びだ。「店を訪れる人が、自分の居場所がある幸せを感じられる場にしていきたい」と話す。

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