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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナ 検査回数を増やせば死亡リスクは減らせるか…感染者が減った今、考えておきたいこと

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 以前、国ごとの新型コロナウイルス検査数と死亡リスクの相関関係を調べたことがあります。これは、各所で「検査をすればするほどよいことが起きる」と言われていたことを検証するためでした。結果、検査をたくさんしてもコロナによる死亡者が少なくなることはないことが分かりました。

Iwata K, Miyakoshi C.Is COVID-19 mortality associated with test number? J Family Med Prim Care 2022;11:1842-1844.

プロとアマの「常識の違い」

新型コロナ 検査回数を増やせば死亡リスクは減らせるか…感染者が減った今、考えておきたいこと

 これは一般の方の直感には反するもので、「ええ?」と思われる方もおいででしょう。しかし、ちゃんと訓練を受けた臨床医であれば納得の結果です。この辺り、考え方の基盤や原則が異なるわけで、なかなか一般市民の方にご理解いただけないところです。

 昔々、サッカーが、日本では超マイナーなスポーツだったころ、ブラジルのエースとして来日したジーコが、日本の観客についてコメントしていたことがあります。当時の映像が手元にないのでうろ覚えの記憶ですが、ジーコはこんなことを言っていたのです。

 「日本のファンはボールを遠くに蹴っ飛ばすと、やんややんやと歓声を上げていた。ボールを遠くに蹴ることが『よいプレー』と勘違いしていたんだ。本当はボールを蹴り出さないで、ちゃんとパスをつないだ方がよいプレーなのに」

 ここでは、一流のサッカー選手であるジーコと、まだサッカー 黎明(れいめい) 期の日本のファンとの「常識の違い」が明示されています。世界的なプレーヤーを引き合いに出すなんて、「お前は何様だ?」というお叱りは甘んじて受けますが、要するに「プロとアマとは常識の枠組みが違う(ことがある)」という話です。

高齢者施設で検査は有用という研究成果

 ところが、そのような「プロの見解」も時には、大きく間違えてしまうことがあります。そんな話を今回はしようと思います。最近、発表された高齢者施設(ナーシング・ホーム)でのコロナ検査です。元ネタは以下の論文です。

McGarry BE,Gandhi AD,Barnett ML.Covid-19 Surveillance Testing and Resident Outcomes in Nursing Homes.New England Journal of Medicine 2023;388:1101-1110.

 米国のナーシング・ホーム最大手の会社には、400万人規模の短期・長期滞在の利用者と、170万人のスタッフがいます。1万5000以上の施設があり、様々な検査を行ってきました。このデータを使った研究です。2020年11月から2022年5月までのデータを検証しました。そこで働いているスタッフのPCR検査や抗原検査の頻度と、ナーシング・ホームでの感染状況の関係を調べたのです。

 すると、スタッフが頻回に検査を受けている施設と、検査が少ない施設では、ナーシング・ホームの住人の新型コロナ感染数に違いがあることが分かりました。スタッフが検査していた方が住人の感染は少なかったのです。特に、コロナ・ワクチン接種以前の場合はその差が大きかったです。また、新型コロナによる住人の死亡も、ワクチン接種前にはぐっと減っていました。ただし、ワクチン接種以降は施設内の死亡に差はありませんでした。

 現在では新型コロナのワクチンは高齢者などリスクの高い人たちには強く推奨されていますから、この研究の結果はそのまんま通用しないところもありますが、将来、似たような感染症が流行した時に、本研究の結果は参考になるかもしれません。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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