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地域の医療・福祉の支えに…第51回医療功労賞 中央表彰者の10人
過疎地など厳しい環境で長年、地域の医療や福祉を支えてきた人を表彰する「第51回医療功労賞」の中央表彰者10人が決まった。献身的な活動を続けてきた受賞者の横顔を紹介する。(敬称略)
道民の健康守り半世紀…藤田 麗子 73 保健師

訪問看護を担う看護師や保健師らと利用者の状況について話し合う藤田さん(右、北海道釧路市で)=西田真奈美撮影
北海道内で保健師を長年務め、定年退職後も釧路市にNPO法人「縁」を設立するなど、50年にわたり住民の健康を支えている。現在、精神障害者や認知症高齢者らを対象に、精神科訪問看護ステーションやデイサービスなどを運営する。「困った人に寄り添って助けたいという保健師マインドで、地域に貢献し続けたい」と話す。
1972年に保健師になり、札幌市内の保健所のほか、釧路保健所や苫小牧保健所などの道立保健所で勤務した。
最初の担当は母子保健。障害児を出産して不安がある母親らに寄り添って支援した。「この経験が保健師としての基盤を作った」
道立保健所では、精神保健に注力した。精神障害で生きづらさを抱える人の悩みや、精神疾患で家に引きこもる子を持つ親の「この子と心中したい」という切実な声に耳を傾けた。

2000年に介護保険制度が創設されるまで、行政にできることは限られた。もどかしさを抱えつつも患者や家族を励まし、地域住民を支えるために奔走した。認知症の「家族会」設立に携わり、自殺対策にも尽力した。
管理職になると住民と対話する機会が減り、「何かやり残したような不全感があった」。そんな中で、「定年後は精神障害や認知症の当事者、家族を支える訪問看護ステーションを作りたい」という夢が芽生えた。
定年退職後の11年、NPOで釧路市に訪問看護ステーションを開設すると、二つの柱を定めた。一つは利用者の心身の状態や生活をじっくり聞く「傾聴」。もう一つに、医療や福祉などの幅広い職種、病院や施設がつながって情報共有する「連携」を掲げる。
事業を始めて約12年。賛同者の輪は広がり、釧路での活動は根付きつつある。「訪問看護を楽しみにしてくれる声や、前向きに生活できるようになった患者さんの姿が何よりうれしい」と笑う。「地域包括ケアの重要性が増す中、これからも訪問看護は必要。地域を大切にした活動を続けていきたい」と力を込めた。〈北海道〉
糖尿病の運動療法広める…片田 圭一 58 理学療法士

石川県立中央病院で患者のリハビリを支えながら、糖尿病のある人の運動療法に専門的に取り組み、後進育成や住民への知識の普及を続けている。
2007年の能登半島地震では、県理学療法士会の活動として福祉避難所支援を行ったほか、仮設住宅の集会所に運動器具も贈るなど、住民に自発的な運動を促し、生活不活発病の予防に力を入れた。
地域には糖尿病専門医やリハビリを担うスタッフが少ない。最新の情報を知ってもらおうと研修会や講演会を定期的に開催。今後、IT活用にも取り組みたいと意欲的だ。〈石川県〉
在宅療養と学校医で尽力…吉河 正人 70 医師

京都府福知山市の中でも高齢化が進む過疎地域で、高齢患者の在宅療養を支えるとともに、学校医として子どもたちの健康増進に携わってきた。
実家は江戸時代から医業を営んでおり、12代目として1992年に継承。患者を運ぶストレッチャーやAED(自動体外式除細動器)などを載せた特別仕様の車で訪問診療を行う。専門医の受診が必要となった患者を搬送することもある。
多職種のつながりを強化しようと、在宅医療や介護連携などの勉強会も開催してきた。今後は、地域の「 看取 り」のあり方について考えていく。〈京都府〉
訪問診療と在宅ケア貢献…加藤 久和 63 医師

奈良県内の過疎地の診療所を経験し、1996年にクリニックを開業した。訪問診療や在宅ケア、 看取 りなどを通じ、地域を支えてきた。
2018年には医療連携ネットワーク「 宇陀 けあネット」の代表理事に就任。設立前から各施設へ説明に回って参加を促し、今は多くの事業所や医療機関が加わっている。こうした仕組みや、情報共有ツールを生かし、各職種のスタッフや行政、住民の距離が近いまちづくりを目指す。
新型コロナウイルスへの対応では、地区医師会長として会員の意見の取りまとめや、行政との調整を行ってきた。〈奈良県〉
豪雪地 住民の健康手助け…岩間 ● 91 医師
(●は「やまかんむり」の下に「弗」)

北海道南部の豪雪地帯、今金町で、63年にわたり地域住民に寄り添う医療を提供してきた。
弘前大学医学部を卒業後、1959年に父の後を継ぎ院長となった。医療機関は町内に数軒で、隣町の病院は車で1時間かかる。住民が平等に医療を受けられるよう往診も積極的に行った。92~2009年に北部檜山医師会会長として、休日診療や救急医療体制の確保に努めた。
現在も外来診療の傍ら、町内の小学校で学校医を約60年続け、児童らの健診を担当している。命尽きるまで地域住民の健康を守り続けたいと誓う。〈北海道〉
巡回診療で子供の歯守る…中村 雅夫 69 歯科医

栃木県内で歯科医がいないへき地での巡回診療を積極的に行い、歯科受診が難しい人々の健康管理に貢献した。
1981年に日本大学松戸歯学部を卒業後、東京などで勤務医を経て、84年に歯科医院を父から継いだ。
医院のある日光市内の農山村地帯は交通が不便で、歯科医がいない地域もある。外来診療の傍ら、34年にわたり小学校などを巡回し、健診や治療を担うなど、子どもの 口腔 衛生に尽力した。
88年から小中学校の学校歯科医を務め、2000年からは地元歯科医師会で要職を歴任。地域医療の充実に努めている。〈栃木県〉
島での医療と介護整える…斎藤 俊 79 医師

少子高齢化が進む地域で医療や介護の環境整備に長年、尽力してきた。
九州出身。東京医科歯科大学を卒業後は関東の病院に勤務していたが、妻の地元である愛媛県今治市の大島で開業した。医師が少ない島では、事故によるケガのほか、ぜんそくや心筋 梗塞 などさまざまな患者に対応してきた。
2000年にケアマネジャーの資格を自ら取得し、訪問看護や介護と往診で在宅患者を支え、市の介護保険運営協議会の委員も務める。今は、医師として島内で一緒に働く長女とともに、地域の医療の継続を目標にしている。〈愛媛県〉
障害ある子供の運動支援…岡本 宏二 62 作業療法士

幅広い世代のリハビリに取り組み、福島県内で住民の健康作りに貢献した。特に子どもへの支援に力を注いだ。
2011年の東日本大震災と福島第一原発事故で、県内では放射線 被曝 への懸念から、子どもは屋外で遊べなくなった。発達障害児らが思い切り遊べる場を作るため、12年に「ふくしまをリハビリで元気にする会」を発足。11年間で理学療法士や保健師など多職種のボランティア約1000人が参加し、体育館などを借り切って40回活動した。
今後も特別支援学校や幼稚園、保育所などで障害のある子どもの運動支援を続けていく。〈福島県〉
奥能登のへき地医療担う… 四十住 伸一 72 医師

医師がいない地域への往診など、石川県の奥能登のへき地医療を担ってきた。
脳神経外科医として金沢大学付属病院などに勤務し、2001年にふるさと・珠洲市でクリニックを開業。山間部の終末期患者や、30キロ離れた難病患者を訪ねて診察するなど、住民が住み慣れた地域で安心して療養できるよう支えた。
通所リハビリ施設も開設し、高齢者が自立して日常生活を送れるよう、身体機能の回復や認知機能の改善などに積極的に取り組む。
能登半島地震でも、避難所の巡回診療に参加するなど、地域住民の健康管理に使命感をもつ。〈石川県〉
楽しい子育ての環境作り…佐藤 香代 71 助産師

女性の健康支援と、楽しく子育てできる環境作りに取り組んできた。福岡県助産師会会長も務める。
助産師100人と結成した「フムフムネットワーク」では、妊婦同士の対話や食事、音楽を聴くなど、身体感覚に着目したカリキュラムを開発。今も多くの妊婦が参加している。
助産師を目指す学生の教育では、実際に様々な活動に参加して学ぶ「生きたケア」を重要視してきた。県助産師会が市町村と行う産後ケア事業では、里帰り先でも受けられる自治体連携のしくみを展開。現在の11市町村からさらに広がる予定だ。〈福岡県〉
◇中央選考委員
永井 良三(自治医科大学長)
曽根 智史(国立保健医療科学院長)
五十嵐 隆(国立成育医療研究センター理事長)
尾身 茂(結核予防会理事長)
正木 尚彦(前国立療養所多磨全生園長)
鎌倉やよい(日本赤十字豊田看護大学長)
大島 一博(厚生労働事務次官)
榎本健太郎(厚生労働省医政局長)
佐原 康之(厚生労働省健康局長)
首藤 正一(アインホールディングス代表取締役専務)
芦田 透(JCRファーマ専務取締役)
石沢 顕(日本テレビ放送網代表取締役社長執行役員)
山口 寿一(読売新聞グループ本社代表取締役社長)
山田 隆(読売新聞東京本社事業局長)
(敬称略)
主催 読売新聞社
後援 厚生労働省
日本テレビ放送網
協賛 アインホールディングス
JCRファーマ
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