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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

繰り返されるサッカーゴールの転倒事故…判決から読み取る教訓

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 学校での児童生徒等の災害に対して支払われる災害共済給付の発生件数は2021年度に83万8886件、そのうち負傷事故が77万6519件でした。家を出てから学校管理下で過ごし、家に帰るまでの時間を9時間とし、年間の登園・登校した日を205日として計算すると、学校管理下では1分間に7件、8・6秒に1件、子どもがケガをしているという計算になります。ずいぶん多い数ですね。全体の数値を見るだけでは予防策を検討することができませんので、個別のケガの実態とその予防策について考えてみましょう。

繰り返されるサッカーゴールの転倒事故…判決から読み取る教訓

イラスト:高橋まや

「まだ、こんなことが起こっているのか!」

事例: 小学4年生男児。2017年1月13日、福岡県大川市の小学校校庭。体育の授業でサッカーをしていた。男児はゴールキーパーで、自分のチームが得点したことを喜び、ゴールネットにぶら下がったところ、ゴールが倒れて下敷きになり死亡した。

 この新聞記事を読んで、「まだ、こんなことが起こっているのか!」と 愕然(がくぜん) としました。以前の事故を調べてみると、驚いたことに、2004年の同じ1月13日に、静岡市で、強風のためにサッカーゴールが倒れ、中学3年生の男子生徒がゴールの下敷きになって死亡していました。文部科学省からは、2009年3月、10年3月、12年7月、13年9月など、毎年のようにサッカーゴール等の転倒による事故防止の通達が出されていました。

 これ以上、同じ事故を起こしてはならない。そのためには、自分で取り組むしかないと決意しました。

学校事故シンポジウムを開催

 文科省関係の会議で知り合いになった弁護士の望月浩一郎先生も、サッカーゴールなどの転倒事故を問題視し、「文科省はゴールの固定が必要と指摘しているが、何キログラムの重りで固定すればいいのか。気をつけて運べと言っているが、何人で運ぶのが安全なのか示してほしい」とおっしゃっていました。そこで、大川市の事故の直後に望月先生に連絡をとり、「もうこの状況は放置できない。われわれでやりましょう」と意見が一致しました。

 望月先生は、一般社団法人「日本スポーツ法支援・研究センター」を中心に弁護士の方々や教員、新聞記者に声をかけ、私は産業技術総合研究所(産総研)のグループにお願いしました。2017年7月にアンケートや実験を行い、同年8月27日にシンポジウム「これで防げる 学校体育・スポーツ事故」を開催しました。

ゴールの転倒事故は年間29件

 日本スポーツ振興センターが保有する災害共済給付データを用いて、2014年度に発生した負傷・疾病108万8587件を調べたところ、1921件がサッカーゴールによる負傷でした。バスケットボールのゴール394件を大きく上回っていました。

 サッカーゴールによる負傷を原因別に見ると、1385件(72%)が「ゴールに衝突、あるいはゴールやネットにつまずき・引っかかり転倒」、281件(15%)が「ゴール運搬、設置準備、片付け時」、170件(9%)が「ぶら下がりや跳びつき」でした。「ゴールの転倒」は29件発生していました。

 このように、ゴールに関連する傷害は、死亡に至らない軽傷事故まで含めると、学校管理下で1年間に数多く発生していました。

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yamanaka-tatsuhiro_prof

山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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