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高齢者がVRで“旅行”、障害者にはメタバースで就労支援も 福祉にデジタル導入…「VR旅行」は米メタとも連携

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 高齢者施設にいながら旅行を体験したり、インターネット上で障害がある人の就労を支援したり――。VR(仮想現実)やメタバース(仮想空間)といった最先端技術の活用が、福祉の現場にも広がっている。デジタルを使うことで経験できることを増やそうと、研究者らが試行錯誤を重ねている。(田野口遼)

VRやメタバース活用

福祉にデジタル…仮想体験 心身生き生き

VRゴーグルを装着し、疑似旅行を体験する高齢者(1月18日、広島県呉市で)

 「空が広いよ」「近くを女性が歩いている」

 今年1月、広島県呉市の特別養護老人ホーム「 仁方にがた 」で開かれた疑似旅行の体験会。戸惑いながらVRゴーグルを着けたデイサービスの利用者ら約15人が、目の前のハワイの映像を追いかけていた。映像は、自分の目の動きに合わせて動くため、まるでその場にいるかのようだ。

 体験した東富子さん(87)は「足もとにきれいな砂浜が広がっていて、実際に旅行した気分になった」と笑顔で話した。

 体験会を実施したのは、東京大学先端科学技術研究センターで学術専門職員を務める登嶋健太さん(36)。介護施設でセラピストとして働いていた登嶋さんは、リハビリに参加してもらうモチベーションを維持するために、高齢者にVRの映像を見てもらうことを発案した。最初は施設の周りの映像からはじめ、日本や世界各地の映像へと広げていった。

 評判は上々で、思い出の地の映像を見ることで高齢者が生き生きとし、記憶が呼び戻されることも多かった。VRの映像を見たいという理由で、リハビリに来る人もいたという。そこで、「もっと多くの人に体験してもらいたい」と、クラウドファンディングも活用し、自ら日本や世界各地に足を運んで、VR用の映像を撮りためた。

 2018年からは東大の研究室に所属し、VRが高齢者の心身に与える影響を研究している。昨年末には、高齢者と地域社会とのつながりの強化を目指し、米メタ(旧フェイスブック)と連携することも発表した。高齢者施設でのVR体験会は、これまでに50か所以上で開催しており、今後はVR用の映像を撮影する講座も実施する予定だ。

 機器の価格面などが課題だというが、登嶋さんは「旅行に行きたくても行けない高齢者にとって、VRは刺激的な体験になる。これからも研究を進め、VRの活用を広げていきたい」と話している。

ネット利用の高齢者 増加

 インターネットを利用する高齢者は増えている。総務省の2021年の調査によると、インターネットを利用する70歳代は59・4%で、17年の46・7%から10ポイント以上増加した。70歳代のスマートフォンの所持率は53・1%にとどまっているが、69歳以下の世代ではほぼ8割以上が所持しており、高齢者にとっても、デジタル機器は身近になっていくとみられる。

 介護や福祉分野でのVRやメタバースの活用を研究している北見工業大の早川吉彦准教授は「今後、デジタル機器を使いこなせる高齢者はさらに増え、VRなどへの抵抗感は薄くなるだろう。高齢者がVRで過去の記憶を仮想的に体験することは、健康寿命を延ばすことにつながる可能性がある」と指摘している。

精神障害者の就労支援にも

福祉にデジタル…仮想体験 心身生き生き

メタバース空間で作成した山梨県をPRするブース(デマンド・アンド・ケア提供)

 精神障害がある人などを対象に就労支援施設を運営する一般社団法人「デマンド・アンド・ケア」(東京都八王子市)では、昨年8~11月、メタバースでの就労支援を試験的に実施した。

 メタバースはインターネット上につくられた空間のこと。現実の街のように店舗やオフィスもある。参加者は、メタバースの中で「アバター」という自分の分身を動かすことで、会話や買い物などを楽しむことができる。

 就労支援に参加したのは、東京都内在住の20~50歳代の男女3人。メタバース空間で、同法人の通所施設がある山梨県をPRするブースのデザインをしたり、施設の担当者と定期的に話し合ったりして、社会復帰へ向けた訓練をした。

 代表理事の小林弘幸さん(50)によると、3人は精神障害などがあり、コミュニケーションが苦手で引きこもりがちだったという。参加した男性(35)は「メタバースは、対人ストレスを抱えてしまう人に合っている環境だと感じた。苦手な接客も、メタバースなら慣れるかもしれない」と手応えを語る。

 一方で、本格運用には課題もある。オンライン形式の就労支援は、新型コロナウイルスの感染拡大を機に厚生労働省が要件を緩和したばかり。メタバースはまだ利用者数も少ないのが現状だ。

 精神障害がある人の中には、人と顔を合わせて話すのが苦手だったり、公共交通機関で施設に来るのを怖がったりする人も多いという。小林さんは「メタバースは精神障害がある人の就労支援にはうってつけ。課題とカリキュラムを精査し、よりよい就労支援につなげたい」と前向きな姿勢を見せている。

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