森永康平「患者と医師のコミュ力を育てる」
医療・健康・介護のコラム
めまいを訴えた30代男性が小脳梗塞…「ふわふわ」「クラクラ」だけで診断はできない 診察室で医師に伝えてほしいこと
30代の男性がめまいを訴えてフラフラしながら診察室に入ってきました。
医師「どうされましたか?」
患者「今朝から急にめまいがありまして」
医師「どんなめまいですか?」
患者「グルグル回るような」
医師「なるほど、だとすると診断は……」
めまいを訴える患者さんに「どんな(どのような)めまいですか?」と聞くのは、一見すると原因を考えていくに当たって有用な質問のような印象があります。
患者の表現は様々
めまいは、短時間・一時的なものまで含めれば体験したことがない人はいないと言っていいくらい、非常に一般的な症状でしょう。一方で、脳 梗塞 や出血など非常に重篤な病気が隠れていることもあり、私たち医師を非常に緊張させる、悩ましい症候の一つなのです。
ぐるぐる、ふわふわ、ガタガタ、クラクラ、ふらっ……患者さんは様々な言葉でめまいを表現します。実際、めまいの表現に限らず、日本語のこういったオノマトペ(擬音語・擬態語)の表現の 緻密 さは世界でも有数であり、例えば雨なんかに限っても「ざあざあ」「しとしと」「ぱらぱら」「ぽつぽつ」「びちょびちょ」「どしゃどしゃ」など数多くあります。私たちもそれほど抵抗なく日常会話でも使用しているはずです。
性質の共有は難しい
これらの多彩で繊細な性質の表現は私たちの文化的な生活を彩ってくれる一方、「めまいの性質」という情報については、2007年に発表されたある論文では、実は(少なくとも単独の情報では)あまり原因の診断に役立たないのではないかという報告がなされています。
具体的には同じ患者さんに「“どんな”めまいですか?」と繰り返して質問すると、数分間の間隔があくだけで回答内容が変化してしまう、そもそも単一の性状を選択できなかった、という結果だったのです。一貫性(普遍性)がなく、信頼性も低い、ということなんですね。
考えてみればすごく当たり前のことのようにも感じます。
私たち医療従事者はほとんどの患者と初対面の状態で関わりを持ち始めますが、年齢や性別、学力、認知機能、飲酒の習慣、精神疾患……など、患者さんには様々な背景や状況がありえます。そもそも全く同じ国語(言語)教育を身につけているとは限りませんから、時間の制約のある診療の場でそこを一から確認していくのは全くもって現実的ではありません。たとえ全く同じ病気だったとしても、症状を感じ取る患者さんによって、感度の差は大きく異なり、その結果、当然ながら解釈や表現もばらついてしまう、というわけです。
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