認知症ポジティ部
認知症になっても前向きに生きるためのヒントをお届けします。
介護・シニア
認知症の当事者や家族が、日常の体験談を本に…幻視で見えた「サルの顔から変化した花の塊」イラストにも
認知症の当事者や家族が日々の暮らしや思いをつづった本が増えています。何げない生活の様子を知ることで認知症を身近に感じられたり、困ったことが起きた時に著者の経験が参考になったりしそうです。担当者の目に留まった3冊の著者に会いに行きました。
母と交換ノート「いい距離保てた」…「たづちゃんノート」(明日香出版社)新美 千恵子さん(65)
認知症の症状が出ていた実母・たづさん(仮名)と「交換ノート」でやりとりを始めたのは2015年1月。大動脈解離で入院中の母を見舞った際、その日の天気などを尋ねる質問をチラシの裏に書いて渡したことがきっかけだった。
病室で退屈そうにしている姿に、「時間をつぶせて、少しでも認知症の進行を遅らせられれば……」と軽い気持ちだったという。
本格的なやりとりは、退院後に始まった。一人暮らしが難しくなった母と同居するようになったためだ。
「きょうの体調はどうですか?」「食べたいものは何ですか?」
朝食後に、そんな質問を書いたノートを母の席に広げておく。文字を書くことが好きだった母は、うれしそうに書き込んだ。「やりとりが娘との共同作業のようで、楽しかったのかもしれません」と振り返る。
雑誌から切り抜いた飲食店の写真を貼り、「今度、食べにいこう」と母を誘ったこともある。
返答に気持ち和らぐ
耳が遠くなり、物忘れが多くなった後もノートを介した母とのやりとりは不思議とスムーズだった。気分がのらないのか、空欄のままの日もあったが、無理強いはしないようにした。
認知症の症状が進むと、急に言葉を荒らげたり、深夜に何度も起きたりすることも。介護は楽ではなく、2人だけの暮らしに息が詰まることもあったが、そんな時もノートが役立った。
イライラした時、「私の長所は何?」と聞いてみた。「優しい」「一生懸命」などと書かれて返ってきて、気持ちが和らいだ。「母がノートを書いている時間、私は家事に集中できた。ちょうどいい距離を保つことができた」と感じている。
「交換ノート」でのやりとりは、約5年半、母が亡くなる前日まで続いた。残された30冊ほどの大学ノートを読み返し、書籍化した。その作業の中で、ノートが色々な役割を果たしていたことに気がついた。
出かける時には「留守番をお願いします」と連絡帳になり、ふだんの体調のチェックにも活用できた。母がつぶやいた言葉を書き留めたり、余白に介護生活の愚痴を書いて気持ちを落ち着けたりした日もあった。
「介護は楽しいことばかりではなかったけれど、母と過ごした最後の時間を記録したノートは宝物になった。気軽に始めることができるので、おすすめです」(沼尻知子)
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