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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

発達障害の男子高校生が、カードゲームを続ける理由…普段は、他人とのコミュニケーションが苦手

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発達障害の僕がカードゲームをやめない理由…苦手だったコミュニケーションが楽しさに

 トレーディングカードゲーム(以下、カードゲームと略)は、自分が収集したカードを使って、相手と直接向き合って対戦するゲームです。「ポケモンカードゲーム」「遊戯王」「デュエル・マスターズ」などがあります。ゲームの主流は、ゲーム機、パソコン、スマートフォンの画面を見ながら行うオンラインゲームと思われがちですが、カードゲームの人気も決して衰えてはいません。今回は、そのようなカードゲームが大好きな男子についてご紹介します。

 雄大君(仮名)は両親と3歳年上のお兄さんと一緒に暮らしています。赤ちゃんの時には、夜泣きがひどくてお母さんが苦労したということでした。大きな音を怖がり、においに敏感なところもありました。幼稚園時代は他の園児と遊ぶよりも、ブロック遊び、お絵描き、絵本読みなど自分の好きなことに一人で夢中になる子でした。また、予定の急な変更をひどく嫌がり、不機嫌になる場面も多かったようです。

 小学校入学後は、お兄さんの影響を受けてポータブルのゲーム機でゲームをして遊んだり、カードゲームを始めたりするようになりました。ゲームの内容については、お兄さん以上に細かいところまでよく覚えていました。学校では同級生とのやり取りが苦手で、なかなか友達ができませんでしたが、高学年になってからはゲームを通じて遊ぶことのできる友達が数人できました。

 中学校入学後の雄大君は、クラスで孤立していましたが、自宅ではオンラインゲームにのめり込み、夜遅くまでゲームをするようになりました。その結果、朝になると頭痛や腹痛を訴えて起きることができず、学校を遅刻したり、休んだりしました。そのため、お母さんが雄大君のゲーム機を取り上げようとしましたが、親子げんかになってしまい、うまくいきませんでした。学校を休む日が続いたので、中学1年の10月にお母さんと一緒に思春期外来を受診しました。

オンラインゲームから再びカードゲームに切り替えてみたら……

 初診時の雄大君は、自分がはまっている格闘系のゲームについて詳しく説明してくれました。夜中までゲームをするので、朝に体調が悪くなることを本人も十分わかっているようでした。発達障害とゲーム依存の傾向が心配されるということで、2週間に1度の割合で、お母さんと一緒に通院してもらうことにしました。しかし、その後も雄大君は、ゲーム時間を短くすることができず、遅刻や欠席を繰り返しました。

 中学2年になってクラス替えがあり、小学校時代に仲が良かった男子と同じクラスになりました。その子は、カードゲームが好きな子でした。雄大君はその子の影響を受けて、しばらく遠ざかっていたカードゲームを再び始めるようになり、夢中になっていきました。近くのカード専門店に頻繁に出入りするようになり、土、日曜にはカードゲームの大会にも友達と参加しています。

 通院を開始して半年後には、オンラインゲームをすることはほとんどなくなり、夜遅くまで起きていることもなくなりました。学校にも休まず通うことができるようになって、お母さんはホッとしていました。

 高校生になった雄大君は、カードゲームをその後も続けており、カードは500枚以上収集しています。カード専門店の店長とカードゲームをしたり、小、中学生に交じって、今でもカードゲームの大会に参加したりしています。

 診察室で、雄大君は「カードゲームは相手を見ながら対戦するので、相手の表情やしぐさから、その人の気持ちを想像することが楽しいのです。自分の出したカードで相手がどんな反応を示すのかを見ることができるので、わくわくします。僕は他人とのコミュニケーションが苦手ですが、カードゲームの時は苦手意識を持つことはほとんどありません」と話します。さらに、「勉強をいくらしても積み重なっていくという感じがしませんが、カードゲームは別で、ちゃんと自分に力がついてくるという実感があります」とも述べていました。

 現在、雄大君は進学を目指して高校への通学を続けています。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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