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[つながる]第1部 地域ではぐくむ<2>カレー店で100円の代金を払えなかった少年…社会人になり、店で発した言葉に店主は涙

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60円しかない…客「出したる」

 食事代より多めにお金を置いて帰る大人の思いを、子どもたちの笑顔につなげる「みらいチケット」は、2018年5月の「げんきカレー」開店から、3か月後に誕生した。

 「60円しかない。どないしよ……」。子どものカレー代は半額の100円。でも、よくやって来る14歳の少年はその日、ポケットを探って表情を曇らせた。「足りない分、出したる」。常連客が見かねて声をかけた。店主の斉藤さんはハッとした。「100円でも払えない子がおるんか……」

 大人が買ってくれたチケットを子どもが取り、無料で食べられるようにしたらどうだろう――。常連客にそんなアイデアを話すと、「俺、チケット買うで」とすぐに賛成してくれた。

「初任給出たから」

[つながる]第1部 地域ではぐくむ<2>育ててもらった地元へ恩返し

 倉本晃佑さん(19)は19年の夏、数か月ぶりに店を訪れた。「やっぱり、うまい!」。中学生だった頃、チケットで何皿も食べたカレーに顔をほころばせた。

 注文はエビフライやカツが載って500円の「ワンコインスペシャル」。この店の一番高いメニューだ。

 食べ終わって帰る時に、「チケットを……」と切り出した。もうチケットを使える年齢ではない。なのに、斉藤さんからは、「使っていいで」と明るい声が返ってきた。「ちゃうねん。初任給が出たから、チケット買うねん。俺らがいっぱい、使っていたから」

 高校をやめ、働き始めた直後だった。食事代のほかに千円札を取り出して、5枚をボードに貼った。

 学校に行かなくなっていた中学3年の頃、「安くてうまいものが食える」と通い始めた近所の店で、チケットを貼る大人の姿を見ていた。「自分で稼げるようになったら、やってみたい」

 みらいチケットが誕生するきっかけとなった「60円しか持ち合わせがなかった少年」が倉本さんだった。思いがけぬ申し出に、斉藤さんは調理場で泣いた。

 倉本さんは今、手に職をつけようと、配管工事や溶接などの仕事をしている。昨年12月上旬、夜勤明けに店に寄った。

 ミニバイクが趣味で、週末はサーキット場で練習したり、大会に出場したりしている。半年前に実家を出て、アパート暮らしを始めた――。斉藤さんにそんな近況報告をしながら、大好きなカレーを頬張った。

 「あの頃、いつもおなかいっぱい食べることができて、ありがたかった。おかげで悪い道に進まず、今があると思う」。斉藤さんが顔をくしゃくしゃにした。(野口博文)

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