医療大全
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続・コロナ禍の傷痕<6>「しょうがない」の裏側
東京都の主婦、マキコさん(61)は、静岡県の有料老人ホームにいる父(89)から1日4~5回の電話を受ける。スマートフォンの画面には「不在着信」の記録が並ぶ。そのまま出ず、自分のこころのなかの「やさしい気持ち」を確かめてからかけ直す。
岐阜県南東部の旧家で生まれ育った父がホームに移ったのは、昨年5月。4年前から地元の高齢者施設に入所していた母と同居するためだ。コロナ禍で面会ができず、独り暮らしの父は孤立感を深めていた。ホームは、マキコさんの妹の家に近かった。
寺の 檀家 の会の副会長や神社の祭りの裏方など、父の暮らしは地域に根をはっていた。認知症などの症状が表れ、暮らしに限界が訪れても、故郷を離れる決断は容易にはできない。引っ越しを控えたある朝、父が泣いた。「オレをこのままここに置いていってくれ」とも言った。「お母さんと一緒に過ごせる」。それが、父が納得しうる、たった一つの言葉だった。
ところが、2人が転居した翌月、突然、母が亡くなった。父は、 看取 りと葬儀を立派にこなしたが、認知症などの症状が進んだ。
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