ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
猫のムギちゃん、2度目の別れ…猫パンチを繰り出すが、内心は寂しいに違いない
猫のムギちゃんが、ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」に、飼い主の大山安子さん(仮名、80歳代)と同伴入居したのは、2019年3月のことでした。ムギちゃんは当時、2~3歳。大山さんは重度の認知症でしたが、愛情は損なわれることなく、とても大切にしていました。
「さくらの里山科」で、犬や猫たちは、ユニットと呼ばれる10LDKのマンションのような区画の中で、基本的に自由に過ごせるのですが、ムギちゃんは大山さんの部屋から出ようとしませんでした。「犬は人につき、猫は家につく」と言われますが、まさに「部屋につく」タイプの猫だったのです。
もちろん、人にも懐きます。ムギちゃんにとって一番大切なのは、大山さんです。これまで一緒に2回引っ越しをしています。大山さんの自宅での“2人”暮らしから始まり、その後、グループホーム(認知症対応型共同生活介護)に入居しました。認知症の高齢者が、少人数で集まってお互いに助け合いながら暮らす、いわば小さな老人ホームです。そして、大山さんの認知症の症状が進んで、そこでの生活が難しくなり、「さくらの里山科」に転居したのです。住む所が3回も変わっても、大山さんと一緒なので安心して暮らしていました。だからムギちゃんは、まずは大山さんという人につき、次に部屋についたのです。
残念ながら、ムギちゃんと大山さんの暮らしは長くは続きませんでした。2021年、大山さんは逝去してしまいます。あるじのいない部屋に1匹取り残されたムギちゃんは、それでも部屋から出ようとしませんでした。こうして、その部屋は「猫付き居室」となったのです。
猫ユニットの入居者は、大の猫好きの方を厳選しています。猫を好きではない方が猫ユニットに入居することは認めていません。そして、猫が好きな方であっても、必ず事前に猫ユニットを見学していただき、猫が自分の部屋にもベッドにも、いつでも勝手に入ってくる環境を本当に希望されるか否かを確認しています。コロナ禍の現在、見学は不可能なので、映像をお見せしています。このような体制ですから、猫ユニットに入居される方は、真の猫好きの方ばかりです。従って、ムギちゃんがいる「猫付き居室」でも問題ないだろうと考えていました。実際、次に入られた吉川良子さん(仮名、90歳代女性)は、猫付き居室に入れることを大喜びしてくださいました。吉川さんは、昔、多くの保護猫を飼って世話をしていることが新聞で取り上げられたほどの猫好きだったのです。
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